企画展「アートって、なに?―ミュージアムで過ごす、みる・しる・あそぶの夏やすみ」
8/25(日)まで

鳥取県立博物館で、夏の企画展「アートって、なに?」が開かれています。たびたび耳にする“アートって、正直よくわからない”という声。その根底にある「アートって、なに?」という疑問に真っすぐに向き合った展覧会です。多様な表現があふれる展覧会の見どころをご紹介します。


毎年、夏やすみは恐竜展や自然科学系の展示など、子どもたちも楽しめる企画展を開催してきた鳥取県立博物館。今年の夏は、2025年3月に県立博物館の美術部門が独立して新しい県立美術館がオープンするのを前に、子どもから大人までアートのおもしろさに出合うことができる企画展を開催しています。

県立博物館が所蔵する美術作品や国内外で活躍する注目作家の作品、絵画、陶磁器、染織、造形などさまざまなジャンルの作品が約80点展示されています。
特徴は、それぞれの作品に、小学生でもわかる優しい言葉で丁寧なキャプションが付いていること。「絵画の伝統ってなんだろう?」「この老人はいったい誰?」など、学芸員が作品の見方や楽しみ方のヒントを示してくれます。

こちらのキャプションには「ふたつの裸婦を見比べてみよう!どんな違いが見えてくるかな?」と書かれていた|(左)前田寛治≪仰臥裸婦≫ 1925年 鳥取県立博物館蔵 (右)ギュスターヴ・クールベ≪まどろむ女(習作)≫ ca.1852年 鳥取県立博物館蔵

また、触ったり、聞いたりと、五感を使って遊ぶことができる作品も多く展示されています。
展示室を進んでいくと、突如現れる二つの炬燵。中ハシ克シゲさんが触覚に注目して制作した作品です。

(手前)中ハシ克シゲ≪炬燵猫・イッチョカミ≫ 2024年 作家蔵 (奥)中ハシ克シゲ≪炬燵猫・トウミンシガン≫ 2023年 作家蔵

「これは、外から見ても、中をのぞいても、わからない作品。触って初めてわかる。実は、炬燵の中に作品があるんです。炬燵に膝を入れて、心を落ち着けて、手を伸ばして触っているうちに…たぶん猫を飼っている人は気持ちがわかるんじゃないかな」と、中ハシさんは茶目っ気たっぷりに話してくださいました。この炬燵、電源も入っていて、あたたかいんです。ぜひ会場で体感してください。

炬燵の中に手を入れて作品を味わう観客

 

飯川雄大≪デコレータークラブ―新しい観客≫ 2024年 作家蔵

展示室の一角に置かれたキャリーバッグ。こちらも作品です。

飯川雄大さんの≪デコレータークラブ―新しい観客≫。壁に「バッグはさわってもよい。ころがしてもよい。」と書かれた紙が貼ってあったので持ち上げてみると…実に重たい。まったく持ち上がりません。聞くと、19kgもあるらしい。

これは、展示室に置かれているバッグを観客が外に持ち出し、また別の展示室まで運んでいくという作品。この夏、飯川さんの展示が行われている東京都渋谷公園通りギャラリーと高松市美術館と連携している企画で、会期中すでに鳥取から東京の展覧会場まで運んだ観客がいるとか。作品を展示室の外に持ち出すという非日常体験、そして、屋外で作品を運ぶという行為を偶然目撃した人もこの作品の鑑賞者になり得てしまうという、愉快な作品です。

このように、企画展「アートって、なに?」では、さまざまなジャンルの作品が多様な切り口で紹介されています。企画展開幕前日に行われたオープニングレセプションで、作家の藤本由紀夫さんが今回の展覧会のおもしろさをこう話されていました。「最近は、ただ作品を提供して、そのままニュートラルに展示されて終わっていく展覧会が多い。今回は学芸員と一緒に、どういう作品にしよう、どうやって空間をつくろうと、展覧会を一緒につくれたのが何よりも喜びだった。観客はその場に来て体験することが展覧会の本来の価値」だと。

また、本企画展では、関連プログラムとして作家たちによるトークやワークショップも多数用意されています。会場で作品に込められた思いを感じ取り、作家たちとも一緒になって楽しみながら「アートって、なに?」を考えてみると、おもしろいかもしれません。

藤本由紀夫≪EARS WITH CHAIR(TOTTORI)≫ 2024年 作家蔵

令和6年度鳥取県立博物館企画展
アートって、なに?―ミュージアムで過ごす、みる・しる・あそぶの夏やすみ

会期|2024年6月29日(土)ー8月25日(日)
休館日:7月29日(月)

時間|9:00ー17:00
開館延長日:会期中の土曜日は19:00まで開館延長(入館は閉館の30分前まで)

会場|鳥取県立博物館 第1・第2・第3特別展示室(鳥取県鳥取市東町二丁目124番地)

観覧料|一般1,000円(大学生・70歳以上の方・20名以上の団体800円)
※高校生以下、学校教育活動での引率者、障がいのある方・難病患者の方・要介護者等およびその介護者は無料

関連プログラム
◆トークシリーズvol.1 飯川雄大「偶然をつくる」
6月29日(土)13:00ー14:00
◆眞島竜男ワークショップ「現代アート展をつくる」
7月14日(日)13:00ー16:00
◆中ハシ克シゲワークショップ「その日の絵日記」
7月27日(土)14:00ー16:00
◆トークシリーズvol.2 中ハシ克シゲ「美術の心と美術の力」
7月28日(日)14:00ー16:00
◆飯川雄大ワークショップ「0人もしくは1人以上の観客に向けて」
8月4日(日)10:00ー16:30
◆トークシリーズvol.3 眞島竜男「アートのこっちとむこう」
8月10日(土)13:00ー15:00
◆木村崇人ワークショップ「星のすむ森/木もれ陽プロジェクト」
8月10日(土)・11日(日)日没ー21:00
◆トークシリーズvol.4 藤本由紀夫「アートにおける音」
8月17日(土)14:00ー16:00

問合せ|TEL.0857-26-8045(鳥取県立博物館 美術振興課)
https://www.pref.tottori.lg.jp/museum/

ライター

濱井丈栄

1979年広島市生まれ。フリーアナウンサー。元NHKキャスター・リポーター・ディレクター。広島・鳥取・東京に勤務し、自ら取材し自分の言葉で伝えることを生業にしてきた。2014年、夫の転勤で再び鳥取へ。同年立ち上がった「鳥取藝住祭」の事務局にたまたま声をかけられたことをきっかけに、アートをいかした地域づくりに関わるようになる。最近の趣味は、さまざまな作家さんのワークショップに行くこと。特にものづくり系が好き。photo:田中良子