天の川の下に、里山の路地は続いてー鳥取R29フォトキャラバン 2025 撮影会ー

今年の夏も、鳥取の自然と写真を満喫できるプログラムが、写真家の水本俊也さんを講師に迎え、企画されました。さまざまなプログラムの中から、2025年8月16日に八頭町で行われた鳥取R29フォトキャラバンの里山撮影会と星空撮影会の模様をレポートします。


とてもよく晴れた日の午後、八頭町日下部にあるゲストハウス「くるくる」を集合場所として里山撮影会はスタート。鳥取R29フォトキャラバンの実行委員長、山根千広さんは、「撮影会で “自分だけのいいな” を見つけてください」と話し、小学生4名、中学生2名、大人たち11人で、散策に出かけました。

偶然にも、地域で暮らし、日下部の歴史にとても詳しい親子が参加者の中に。お二人に先頭に立ってもらい、集落内の路地を進んで行きました。

安部駅の踏切を超えて、集落への坂道を登ると、迷ってしまいそうな曲がりくねった細い路地や、里山らしいスポットが続き、同時に家々の生活の息遣いが伝わってきました。地域をよく知る方が案内してくださらなければ、なかなか足を踏み入れるのが難しい場所だったかもしれません。

炎天下でしたが、小学生、中学生も疲れた様子を見せることなく、水本さんにアドバイスを受けながらシャッターを切り続けていました。

水本さんは、八頭町の教育委員会と連携し、これまで町内の各小学校で写真プログラムを実施してきました。その時に出会った子どもたちの何人かも、今回自主的に参加。米子市や伯耆町からやってきた子どもたちもいます。継続的に参加しているという小学生の男の子がリラックスした様子で、元気にカメラを構えている姿が印象的でした。

2015年に発足した鳥取R29フォトキャラバンは、当初から子どもたちに向けてのプログラムに力を入れてきました。その後、コロナ禍をきっかけに、大人も参加できる体制を整えることに。

「写真を通して、子どもたちにニュートラルな発見をしてほしい。その様子を見ながら一緒に撮影する体験は、大人たちにとっても発見の連続です。集落には人が大切にすべき原風景や習慣、文化や伝統が色濃く残っています」と水本さんは、日下部の小道を歩きながら話してくださいました。

カメラを持つと普段は気に留めないものにも、関心が湧いてくるので不思議です。若桜鉄道の安部駅舎にちょうど到着した車両、黄緑色の若い柿、木々の根元、国道沿いに植えられた花々、軒先の猫と、ショウジョウトンボ。足を止める場所や、カメラを向ける場所は人それぞれ。「自分の好き」と、隣でカメラを構える「誰かの好き」が影響し合って、新しいものの見方に目が開かれていく感覚がありました。

「くるくる」のオーナー西川信彦さんは、ご自身のカメラを携えてフォトキャラバンに同行。地域の魅力がどうしたら伝わるか常に考えて撮影しているそうです。そして外国の風景に見えるように里山を撮ってみたいとのこと。さっそく私もその視点で周りを眺めてみると、馴染みのある日本の建物や田畑も新たな表情を見せてくれるようでした。

「くるくる」に戻ると、撮影した写真から、自分の特別な一枚を選んでプリント。テーブルの上に並べて、全員で鑑賞しました。

暗い背景に浮かび上がった一本の白い羽、遠くまで続く線路、川面に迫る高さから小川を切り取った一枚……。白い羽根が散策路に落ちていたことに気が付いていたのは、小学生の男の子二人だけ。同じ里山を歩いていたけれど、子どもたちはこんな世界をとらえていたのかと、その視線の先に驚かされました。

同じ日の夕方に、安部駅近くで行われたのが星空観察会です。里山撮影会から続けて参加したのは12名。そこに二組の親子とサポートスタッフも加わり、19名が集まりました。

まずは三脚の建て方やカメラの設定の方法を、水本さんから教わりました。参加者は小学生と大人2人でチームを組んで一台のカメラを使い、撮影の準備をすることに。デジタルネイティブの小学生は、カメラの複雑な設定を上手にこなしていきます。以前、佐治の天文台や砂丘での星空撮影会に参加したというお二人も、スタッフとして参加者をサポート。機材の使い方や星座について丁寧に解説されました。

三脚とカメラを持って外に出ると、安部駅の周りには、星のあかりを遮る光が少なく、満天の星でした。「雲のまったくないこんな最高のコンディションには、なかなか巡り会えない」と水本さん。北極星の方向にシャッターを1時間くらい開けておくと、北斗七星が一回転する様子を写せることなど、撮影のコツも伝授。翻った先の南の空には蠍座が輝きを放っていました。

カメラを設置する場所をチームで決めて、3人で順番に撮影していきます。「あそこに天の川が」と、頭上を指指して教えてくれたのは、小学生の女の子。天の川へとレンズを向けて、シャッターを押すと、小さなモニターに映し出された星々は、予想したよりも輝いてくっきりとしていました。朝になれば見えなくなる星空を、まるてポケットの中に大切にしまっておけるような気分でした。

チームのメンバーが撮った写真に写し出されていたのは、山際から続く星空や、流れ星のように線を描く星々。かけがえのない夏休みを参加者のみなさんと共に過ごし、鳥取の静かな星空を再発見することができました。

水本さんは、「これまで八頭町で目にしたどんな天の川よりもきれいでした。みんなで星空を見たというのも、感動の大きなポイントだったかもしれません」と撮影会を振り返ります。鳥取R29フォトキャラバンは、2024年に公開された映画「ルート29」のロケ地を巡る撮影会も計画しているそう。発見と希望に満ちたフォトキャラバンの旅は、これからも続きます。


水本俊也  /  Mizumoto Shunya

写真家。鳥取県八頭町出身。神奈川県横浜市在住。公益社団法人日本写真家協会会員。キャノンジュニアフォトグラファーズ講師。船旅や海をテーマに世界100近い国や地域を撮影。9回訪れた南極をはじめ、ツバル、北極圏などの僻地でも撮影を行っている。2013年からは鳥取の豊かな自然を舞台(背景)に、家族の肖像を撮影する「小鳥の家族」を主催。2015年からは「鳥取R29フォトキャラバン」講師を務める。作品制作に因州和紙を使用し、鳥取からの文化発信を積極的に行っている。

水本俊也公式サイト https://waterbook.net

水本俊也さんのワークショップや撮影会などの情報は、こちらのホームページで発信されています。
https://mizumotoshunya.amebaownd.com


鳥取R29フォトキャラバン 2025 撮影会

里山撮影会
日時|2025年8月16日(土)15:00-17:00
場所|鳥取県八頭町 若桜鉄道 安部駅周辺(集合場所 ゲストハウス「くるくる」)

星空撮影会
日時|2025年8月16日(土)19:00-21:00
場所|鳥取県八頭町 若桜鉄道 安部駅周辺(集合場所 ゲストハウス「くるくる」)

問い合わせ|鳥取R29フォトキャラバン実行委員会 
      https://road29photocaravan.tottori.jp/

ライター

彩戸えりか

沖縄で生まれた詩誌「ぶーさーしっ」と、全国の仲間と作る詩誌「言葉をさがす旅 Sail」「言葉をさがす旅 Soil」に鳥取から参加しています。皆生で開かれた白井明大さんのワークショップが詩への入口でした。