南 阿沙美(写真家)#2
日々の生活が大事。写真はカメラがあればいつでも知らない間に撮っちゃってるから
今年2冊の写真集『MATSUOKA!』と『島根のOL』を出版した写真家の南阿沙美さん。全国各地の出版イベントへ駆け巡り、この度10月には鳥取・島根でシリーズ「島根のOL」の写真展が始まります。そんな南さんに「最近考えていること」について伺いました。
― 川の近くはいいなーとか、広い部屋に住みたいなーと思いはじめたのはいつからなんですか?
南:いつからだろう?この1、2年ぐらい。東京暮らしが長くなって、写真のスタジオで働いて超いそがしい時期があって、フリーになると、基本的に戦いの世界でいろいろ大変で。20代はすごくぼーっとしてた時期だったけど、30代になって悔しいとか腹が立つとか気持ちが生まれて、この感情が活力になって結構前に進みました。でも最近はなんか、いい意味でいろいろめんどくさいなって思うようになって、そうすると、わたしにとって「めんどくさいな」と「これは大事」が振り分けられるようになったんです。そしたら余計なことをやらずに、大事なことだけを簡単に選べるようになってきました。だから、めんどくさいと思うことは便利というか。めんどくさくても、やらないといけないもあるけど。ただ、めんどくさいと思えるジャッジができるようになってきましたね。
― 「めんどくさいこと」と「大事なこと」は、たとえばなんですか?
南:大事なことは、ものづくりのことだったり。でも、一日中、生きていて大事なことばかりじゃないじゃないですか。すごく思うのは、東京は戦場すぎるなー。ということ。戦うことはたぶん好きなんですけど、朝、満員電車に乗ることは無駄な戦いだし。みんな必死じゃないですか。最近忙しいから、時間ギリギリに行動することが多くて、だから、乗り物に間に合うということも大事な戦いなんです。でも、この間はじめて負けたんですよ。大阪から新潟に行くときに飛行機に乗れなかったんです。いつもはなんとかなっていたんですが、はじめて大丈夫じゃなかったんです。戦いに敗れたと思いましたね。
あと、新しい服や白い服を着て、汚れないように大事にしようとがんばるけど、途中でカレーうどんやミートソースをこぼしたときって、しまった!と思うんだけど、そこからが結構、楽で。もう汚れてもいいんだからな、へっちゃらだよ、って。もうこの先は守らなくていいみたいな。なんか、諦めることを鍛える感じ。分かるかな。
― 分かります。わたしも諦めを鍛えるために、最近白い服を着てるんですよ。汚れることに恐れないというか。あと、汚れの落とし方がわかったから、平気になったし、もし落ちなくても、リメイクできるチャンスだとか思えるようになりましたね。
南:コートとかそうかも。エリが汚れたらバッチつけたりする。そういう汚れても大丈夫、負けても大丈夫という鍛えがあって。それからは、めんどくさくないし、楽になった。東京は時間に間に合わなければいけない、戦いに勝ち続けなきゃいけないから、毎朝みんな必死なんだけど。たぶん、緩さがありそうなインドネシアや沖縄だったら、時間に遅れてもいいさーみたいな。そういう無駄な戦いがないと思う。いま、展覧会で岡山に行ったり、鳥取に来たりして、なんかそういう戦いはなさそう。だから、他のことで戦える。戦わなくてもいいんだけど、ものづくりに集中できる感じはあるかな。
ー だから、東京じゃなくてもいいなってこと?
南:うーん、でも商業的な仕事は東京に集中していて、急な仕事も入ったりするから。仕事は仕事で楽しいからやりたいけど、毎日でもないから、東京の川の近くでもいいんだけど。あるいは、東京だけど地方みたいに過ごせるところとか。いま、けっこう東京の都心で、めちゃくちゃ便利なところにいて、なんかもうちょっと遠くにいてもいいかなーとは考えています。でも考えているだけで、全然なにもしてないけど。
― 広い部屋に住みたいというのは?
南:この間、日本舞踊の方のお話を聞く機会があって、昔、その方が家を出て狭い部屋で一人暮らしをした時期に出た舞台で、師匠でもある親に「狭いところで稽古している踊りだね」と言われたみたいで。だから部屋や環境で縮こまったり、のびのびできないってあるし、それが表に出ちゃうっていうのがめちゃ納得したんです。住む環境によって、無意識に選択肢が違うんじゃないかなと思いました。大阪の友人は、3階立ての一軒家に一人で住んでいるのだけどたくさん物があって、好きな作品を買って飾ったりする場所もあって、好きなもので溢れていて。わたしは、好きなものがあっても部屋に置けないし飾れないなと思って、買わない。だから環境ってすごい大事ですよね。しかも家なんて毎日過ごす場所だから。本やCDも買わないようにしていたし、これは良くないなーって。
― 広い部屋があったら、なにをします?
南:なにも置いてないスペースがあるってことも余白があるっていうことだから、余白がほしい。もちろん、ものを買っても大丈夫っていう安心感。今の部屋はわりと好きで長く住んでて、日当たりがよくて場所的にも便利だから、嫌だと思ったことはない。ただもうちょっと広くて、川の近くに住みたいなって考えてます。
― 川の近くって思う理由はなんだと思いますか?
南:わかんないけど、心の問題かな? 自然物として。ほんとは川だけじゃなくて山も見えたほうがいいかな。動物も面倒がみれる環境になったら飼いたいけど、今はきっとお世話できないから、飼わない。畑もほしい。今はなにもしてなくて、前は友達の畑をかりて、ちょっと育てたこともあったけど、近くなかったから。朝起きて、眠気まなこでとりあえず、水やりができるような環境が欲しいです。
― 近い未来、こうなりたいなーって思うことはありますか?
南:普通に結婚したい(笑)。日々の生活が大事。写真はカメラがあればいつでも知らない間に撮っちゃってるから。それ以外のことが大事。
最近結婚した友達夫婦が布団を占領してくるって、相手の寝相の話をしてたんですよ。で、もう一人の友達が「うちの旦那もそう」的な配偶者同士の話があって、わたしはいま一人暮らしで一人で寝てるから、家に帰ったときに、わたしも誰かと暮らしたいなーと思っていたら、同じ独身の女友だちから急に画像が送られてきて、そしたら飼ってる金魚のよく分かんない写真で、「今日気付いたんだけど、金魚たちが前びれで体を支えて寝てる」ってラインが来て。よくみたら、確かに支えていて、なんとも言えない気持ちになって、かたや配偶者の寝相、独身女は金魚の寝相の話をして、ちょうどタイムリーにきて面白かったです。だから、家に誰か、自分以外の生き物がいるのはいいですよね。
今の部屋でもいいんですけど、このスタイルに飽きてきたって感じです。でもとくに、具体的には準備や予定はしてないです。なにもないのに引っ越しはたぶんしない。誰かと一緒に住むことになるとか、いい物件が見つかったとか、そういう自然な流れがない限りはしない気がする。写真は今もどこでもできるからこそ、今できてない他のこと、畑やりたいとか考えてます。
― 写真はいつでもできるって思うようになったのはいつですか?
南:写真はがんばってやってる感覚はないです。自然に。島根に通ったのも大変だと思ったこともない。二冊写真集つくるのは、作り始めたらセレクトや写真組みが、ぎゅっと大変なだけで、でも撮影自体は大変じゃない。撮られてる本人たちは大変だったかもしれないけど。過酷なことをさせられて(笑)。わたしは楽しいだけで、どんどん適当になって考えないようにすればするほど、楽に撮れるから、そうしようと思っています。
撮影協力:汽水空港
〈#3へ続く〉
南 阿沙美 / Asami Minami
1981年北海道札幌市生まれ。2014年キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。2019年5月に写真集『MATSUOKA!』(Pipe Publishing)、8月に『島根のOL』(salon cojica)を発表。そのほか「親子写真入門」「sheHerHers」「オートマチック乙女ちゃん」「ハトに餌をやらないでください」等の作品を個展・グループ展で発表している。
http://minamiasami.com
写真展『島根のOL』
会場|Y Pub&Hostel(鳥取県鳥取市今町2丁目201 トウフビル1F・2F)
日時|2019年10月8日(火)-10月29日(火) 午前の部7:00-10:00/午後の部18:00-24:00
http://y-tottori.com
会場|NU(島根県松江市白潟本町10番地 園山ビル2F)
日時|2019年11月2日(土)-11月4日(月)14:00-21:00
※11月2日(土)、3日(日)両日とも19:00からライブイベントあり
http://nurecords.jp
写真展『MATSUOKA!』
会場|汽水空港 (鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18)
日時|2019年8月28日(水)-9月18日(水)11:00~19:00 ※会期終了
https://www.kisuikuko.com
会場|ラーメンやんぐ(静岡県三島市北田町6-21)
日時|2019年9月23日(月)-10月12日(日)11:30-15:00、17:30-20:30 ※木日、第一・第三水曜定休