〈鳥取銀河鉄道祭〉のために
宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」
#12 ジョバンニの切符(石炭袋 編)

鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019 のメイン事業〈鳥取銀河鉄道祭〉。宮沢賢治作「銀河鉄道の夜」の物語をベースにしながらも、鳥取県内の魅力的な人々や動きなどを集め最終的に舞台公演を構成していく試みです。ここでは原作「銀河鉄道の夜」の最終稿(1)を13回にわたって紹介していきます。
鳥取県西部に住む子どもたちの憩いの場、米子市児童文化センター(2)。今回のイラストではセンターに併設するプラネタリウムがイメージされています。


九、ジョバンニの切符

そのときすうっと霧がはれかかりました。どこかへ行く街道らしく小さな電燈の一列についた通りがありました。それはしばらく線路に沿って進んでいました。そして二人がそのあかしの前を通って行くときはその小さな豆いろの火はちょうど挨拶でもするようにぽかっと消え二人が過ぎて行くときまた点くのでした。
ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまいほんとうにもうそのまま胸にも吊されそうになり、さっきの女の子や青年たちがその前の白い渚にまだひざまずいているのかそれともどこか方角もわからないその天上へ行ったのかぼんやりして見分けられませんでした。
ジョバンニはああと深く息しました。
「カムパネルラ、また僕たち二人きりになったねえ、どこまでもどこまでも一緒に行こう。僕はもうあのさそりのようにほんとうにみんなの幸のためならば僕のからだなんか百ぺん灼いてもかまわない。」
「うん。僕だってそうだ。」カムパネルラの眼にはきれいな涙がうかんでいました。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。
「僕わからない。」カムパネルラがぼんやり云いました。
「僕たちしっかりやろうねえ。」ジョバンニが胸いっぱい新らしい力が湧くようにふうと息をしながら云いました。
「あ、あすこ石炭袋だよ。そらの孔だよ。」カムパネルラが少しそっちを避けるようにしながら天の川のひととこを指さしました。ジョバンニはそっちを見てまるでぎくっとしてしまいました。天の川の一とこに大きなまっくらな孔がどほんとあいているのです。その底がどれほど深いかその奥に何があるかいくら眼をこすってのぞいてもなんにも見えずただ眼がしんしんと痛むのでした。ジョバンニが云いました。
「僕もうあんな大きな暗の中だってこわくない。きっとみんなのほんとうのさいわいをさがしに行く。どこまでもどこまでも僕たち一緒に進んで行こう。」
「ああきっと行くよ。ああ、あすこの野原はなんてきれいだろう。みんな集ってるねえ。あすこがほんとうの天上なんだ。あっあすこにいるのぼくのお母さんだよ。」カムパネルラは俄かに窓の遠くに見えるきれいな野原を指して叫びました。
ジョバンニもそっちを見ましたけれどもそこはぼんやり白くけむっているばかりどうしてもカムパネルラが云ったように思われませんでした。何とも云えずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度両方から腕を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。
「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。ジョバンニはまるで鉄砲丸のように立ちあがりました。そして誰にも聞えないように窓の外へからだを乗り出して力いっぱいはげしく胸をうって叫びそれからもう咽喉いっぱい泣きだしました。もうそこらが一ぺんにまっくらになったように思いました。

〈#9ジョバンニの切符(牛乳) へつづく〉

1:「銀河鉄道の夜」は宮沢賢治が1933年に亡くなるまで繰り返し推敲されています。ここでは最終稿と呼ばれる第四次稿を順に紹介していきます。
2:1983(昭和58)年に開館した児童のための文化施設。図書館やプレイパークを併設し、中でもプラネタリウムは鳥取県西部に住む子どもたちに愛されてきました。2019年4月27日、28日には、第17回鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019メイン事業「鳥取銀河鉄道祭」米子公演として、〈プラネタリウム劇場「音とカラダで銀河鉄道」〉の会場となりました。http://yonagobunka.net/jibun/


イラスト:鳴海 梓
この春、鳥取銀河鉄道祭の米子公演『音とカラダで銀河鉄道』が米子児童文化センターのプラネタリウムを会場に行われました。公演の中で、その日の夜空(ほんの少し先の未来)をセンターの解説員・森山慶一さんが解説してくれて、石炭袋がどんなものか、その時に私たち家族は学びました。そんな家族の思い出のプラネタリウムの入り口と石炭袋を重ねて描いてみました。


鳥取銀河鉄道祭
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を題材にした音楽劇を鳥取県内の皆さんで作ります。また「すべての人が芸術家である」という賢治の思想に基づき、県内様々な地域での活動や人々の暮らしをリサーチ、紹介しています。鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019メイン事業。
会期 2019年11月2日(土)ー4日(祝・月)
会場 とりぎん文化会館(鳥取県立県民文化会館/鳥取県鳥取市尚徳町101-5)
公式HP https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/

↓↓↓会期中以下のプログラムが開催されます↓↓↓

音楽劇〈ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」〉
2年越しで鳥取のみんなで創った移動型音楽劇の公演を開催。
日時 11月2日(土)午後3:00-、午後6:00-、11月3日(日)午前11:00-、午後3:00ー (全4回公演・公演時間約90分)
チケット 前売1,000円・当日1,500円、中学生以下無料(要申込) ※購入はweb、窓口、メール、電話にて。

フリーマーケット〈ケンタウル☆自由市場〉
持っているモノ・できるコトをシェアするフリーマーケット。
日程 11月2日(土)・3日(日)

映像リサーチ展示・トーク
佐々木友輔・すみおれアーカイヴス・波田野州平らが県内の暮らしや芸術をリサーチした新作映像の展示上映(2日-4日)と、3者によるトーク(4日)
日程 11月2日(土)-4日(月・祝)

問い合わせ
鳥取銀河鉄道祭実行委員会
E-mail. gingatetsudou.tottori@gmail.com
Tel. 080-3890-0371(野口)

ライター

トット編集部

当ウェブマガジン編集部。鳥取の今をアートやカルチャーの視点から切り取ってお届けします。不定期に集まり、運営方針や記事内容の検討などをする編集会議を開いています。随時メンバー募集中!


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