映画を選ぶ楽しみを、もう一度──袋川のほとりに生まれた小さな映画館「シネマドア」
鳥取市元町に2026年4月3日に誕生した映画館シネマドアは、市民が協同で手掛けるコミュニティシアター。続々と上映作品を発表し、新たな文化拠点として注目を集めています。シネマドア鳥取合同会社代表の金塚敬子さんへのインタビューから、文筆家・谷口恵子さんがその魅力を探ります。
春の袋川沿いは、一年で最も賑やかな季節を迎える。入学や七五三、そして結婚の写真を撮る人たちや花見客で、川沿いは華やかに彩られる。その中でも花見橋付近は、お花見の中心地と言っていいだろう。この近辺が、今後、1年を通してより賑やかになりそうだ。
映画館「シネマドア」は、4月の初め、花見橋のほとりにオープンした。代表の金塚さんは、東京から移住し、なんと1年ほどで仲間と映画館を作り上げてしまった。
ここでは映画好きや、そうでない人が、自然と集まり映画と会話を楽しむ。金塚さんはこの場所を、コミュニティシアターと呼ぶ。シネマドアという空間が作られた背景や、今後の展望についてグランドオープン前にお話を伺いに行ってきた。
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ー そもそも金塚さんが鳥取に移住された経緯を教えてください。
実は元々、親戚が鳥取市の出身で、毎年1〜2回くらいは鳥取に来ていたんです。5年ほど前から東京にいるよりは、もうちょっとのんびりしたところに住みたいと考え始めて、最初は熱海や三崎など東京の近場での2拠点生活を検討していました。でも、古い家をリノベーションすることにすごく憧れがあって、たまたま築60年くらいの家を鳥取で見つけたのが決め手でした。

ー なぜこの鳥取の地で、映画館を作ることになったのでしょうか?
移住してきて直面したのが「鳥取だと見たい映画がなかなか見られないな」という現実でした。移住してすぐ、2025年の1月末に移住者の集まりがあり、そこで私が「映画を観る場所がもっと欲しい」と話をしたのがきっかけです。それが地域を盛り上げたいと考えていたメンバーの想いと合致し、テンポよく動き始めました。鳥取の映画館の歴史を学び、最初はかつて複数の映画館があった川端通りを中心に探していましたが、メンバーの一人が今の物件を見つけてくれました。広さもちょうど良く、袋川に面していて桜の時期にオープンしたら盛り上がるだろうという、結構シンプルな発想でここに決めました。
ー 移住からわずか数ヶ月でプロジェクトが始動しましたが、その驚異的なスピード感の裏側には何があったのでしょうか?
もしかしたら、当時は「移住ハイ」になっていたんだと思います。環境が変わり、自分の言葉を周りが好意的に受け取ってくれたことで、あれよあれよと進んでいきました。本来の私はそういう人間ではないのですが、タイミングと心の感じが合わさって、加速度がついてしまったんです。また、途中で補助金の申請が通ったことも大きく、「通ったからには実績を作って動かなければ」という使命感でどんどんと進んでいきました。
ー 映画と金塚さんの関係は、どんなものですか?
そうですね、幼少期からの環境を考えると、私の本家が、かつて映画館を3館経営していたんです。ちょうど昭和の映画全盛期で、映画を観ることは、時代的にも大きな娯楽だったと思います。家族と一緒に行ったり、時には友人や恋人とも頻繁に行きましたね。高校生になると一人でいろいろな映画館に出かけました。映画は常に生活の中にあるものでした。

ー シネマドアを20席という非常にコンパクトなサイズに決めた理由と、理想のシアター像を教えてください。
この大きさにこだわったというよりは、私が東京でよく行っていた「シネマ・チュプキ・タバタ」というミニシアターが20席で、その「親密な感じ」がすごく好きだったんです。アットホームで、落ち着く感じがして。日本全体で、映画館の数は残念ながら減ってきていますが、ミニシアターの数は増えているということもあり、大規模な映画館を作ろうという気持ちはありませんでした。また、鳥取の町の雰囲気や、末長く続けていきたいという思いから、まずはこの小規模なスケールがベストだと判断しました。
ー 「コミュニティシアター」という言葉を掲げていらっしゃいますが、具体的にどのような場所になりそうですか?
コミュニティシアターという言葉は、沖縄の「シアタードーナツ」さんも使っている言葉なのですが、映画を観るだけが目的ではなく、皆さんが集まれるコミュニティベースのスペースにしたいという意味合いです。上映の間のカフェタイムを利用して、上演までの会話を楽しんだり、また、残りたい人は残って感想を話し合ったり。監督さんが来館された時には、ともに雑談できる場を目指しています。マイクを使ったトークショー形式だけでなく、もっと平たい、フラットな感じでお喋りができる、そんな温かい場所にしたいですね。
ー 4月の映画ラインナップ(6作品)について教えてください。
一番の根底にあるのは、「見た後に、話したくなるような映画」という共通点です。シネマドアは上映の合間にカフェタイムを設けるので、そこでの会話の「きっかけ」になるような作品であることを大切にしました。話し合うというほど、緊張した真剣な雰囲気ではなく、会話が生まれることでコミュニティーが元気になるようなイメージです。

例えば、精神疾患を抱える家族を追ったドキュメンタリー『どうすればよかったか?』は、まさにその会話が始まる映画だと思います。家族というテーマは誰もが当事者として、大なり小なり問題を抱えているのが一般的ですよね。「話し合うきっかけ」としてはすごくいいのかなと思っています。実際、今のところ予約数が一番多いのもこの作品です。
また、私が女性ということもあり、『女性の休日』のように女性の共感を得るような作品は大切にしていきたいと考えています。実際に、シネマドアの準備をしている最中、この場所に興味を持ってくださったのは、女性がとても多かったこともあります。なので、大切なメインターゲットの一つだと捉えています。
一方で、『黒の牛』を入れたのは作品のバリエーションとしてのバランスもありますが、こうした少し「敷居が高い」と思われるようなアート性の高いものも、コンスタントに織り交ぜて紹介していきたいです。
ー 金塚さんが個人的に一番思い入れのある作品はどれですか?
『黒の牛』は、実は自分が観たかった映画ということで、とても楽しみにしています。白黒映画の要素も含まれていますし、何より音楽は、坂本龍一さんが担当しているので、ストーリーを追わなくても、映像美や音楽を無心に楽しんでいただける作品だと思います。
ー 映画のセレクト基準はどんなところでしょうか?
普通、マーケティングのセオリーではターゲットを明確に絞るものですが、鳥取のように映画を観る場所が少ない環境では、あえて「絞りすぎない」ことを忘れないようにしています。基準は、やはり直感に頼るところも大きいのですが、一定の質を担保しつつ、「地域の皆さんの観たい」にも答えていける、そのバランスを大切にしたいです。コミュニティスペースとして、映画好きもそうでない人も入りやすい空間になるよう、映画を選んでいく予定です。何かのきっかけでふらりと入りやすい……そんな「開かれたドア」としてのラインナップを、これからも目指していきたいです。

ー 5月のラインナップについて、今教えていただける範囲で、話を聞かせていただけますか?
5月の上映で、まず懐かしさを感じるのは「映画 冬のソナタ 日本特別版」。そして、ジャズミュージックと女性のエンパワーメントをテーマにした「1975年のケルン・コンサート」。実際の事件の当事者女性が監督を務めたドキュメンタリー「Black Box Diaries」の上映を予定しています。
ー 今後、やってみたいイベントや企画はありますか?
現在、水曜日と木曜日が休館日となっていますが、その休館日を活用してライブやイベントのレンタルスペースとして活用してもらえたら、という気持ちがあります。コミュニティスペースとして、映画以外の可能性を広げられるといいです。また、映画に関しては、誰も知らないような小さな自主制作映画の中から、この「シネマドア」から始まったヒット作!と言えるようなものを見つけて発信できたら、夢のようです。実現できたなら、最高に嬉しいですね。
ー シネマドアに参加したい、または映画業界に関わりたいと思うひとは、どのように運営に関わることができますか?
これから社員4人だけで回していくのは現実的ではないので、せっかくのコミュニティスペース、皆さんのご協力をいただければ嬉しいです。例えば「シフトに入る代わりに映画を自由に観ていいよ」といった形で、ボランティアスタッフとしてお手伝いいただける方がいたら、ぜひ1度ご連絡いただけると嬉しいです。興味のある方は、ホームページの問い合わせフォームやメール、お電話から、ぜひお待ちしております!
ー 最後になりますが、シネマドアの最新の上映スケジュールやイベント情報は、どこでチェックすればいいでしょうか?
最新情報については、X(旧Twitter)やFacebook、インスタグラム、そして公式ホームページを並行して更新しています。今のところは、Xが一番反応をいただけるかなという感じですね。また、紙のチラシにも力を入れています。毎月の上映作品を1枚に集約して、パッと見て「今月は何をやっているのか」がすぐ分かるようなチラシを作成し、様々な施設で並べていただいています。デジタルでもアナログでも、皆さんが一番使いやすい方法で「ドア」を叩いていただければ嬉しいです。

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鳥取市で、映画館が一つになってどれくらい経っただろう。当時二つあったうちの一つがなくなると聞いた時、大切にしていた趣味がなくなってしまったかのように感じた。映画館があることよりも、映画を選ぶことが、どれだけ楽しみの一つになっていたのかを、なくなってから実感したのは私だけではなかっただろう。
生活圏内に、新しいお店ができる。カフェができる、映画館ができる、花屋さんができる。お客の立場なら、気に入った場所がなくならないように、積極的に関わりを持って楽しむ、という選択をしたくなるのが春という季節かもしれない。チケットを買って映画を観たりコーヒーを頼んだりして、生活の潤いに自分から飛び込んでいく。それは、支えあいであり、かつ個人でできる持続可能な町づくりの一歩だ。気に入っているのなら、態度と頻度で示さないと、サードプレイスはいつか突然なくなって、生活の彩は一瞬で消えてしまう。花見のついでに、あるいは花見がひと段落した頃に、今年の春はふたたび映画を選びに出かけたい。
コミュニティーシアター「シネマドア」
直近の上映スケジュール|
2026年4月24日(金)ー29日(水)
10:00ー12:00 『黒の牛』
13:00ー14:40 『ナースコール』
15:40ー17:25 『かもめ食堂』
2026年5月1日(金)ー6日(水)
10:00ー11:50 『屋根の上に吹く風は』
13:00ー15:00 『1975年のケルン・コンサート』
16:00ー17:45 『Black Box Diaries』
2026年5月8日(金)ー12日(火)
10:00ー12:00 『1975年のケルン・コンサート』
13:00ー14:45 『Black Box Diaries』
15:45ー17:30 『かもめ食堂』
※1スクリーン・20席/各回入れ替え制。公式ホームページより要予約。
料金|一般 2,000円、会員 1,500円 ※作品により特別設定の料金もあり。
シネマドア会員 年会費|一般 2,000円、シニア・学生 1,000円、障がいのあるかた 無料
問合せ|シネマドア鳥取合同会社(鳥取県鳥取市元町222)
電 話|0857-30-2555
https://cinemadoortottori.com/