哲学カフェから学ぶ対話づくりのエッセンス”つながるってどういうこと?”レポート
2026年1月から3月にかけて、哲学プラクティショナーの松川えりさんを招き、対話づくりを学ぶプログラムが県内3か所で企画されました。鳥取県立美術館ではCONNEXIONS展における大学連携プログラムとして2回に渡り開催。トットライターの新松寛明が実践編に参加した様子を伝えます。
2026年2月23日、鳥取県立美術館にてCONNEXIONS展関連イベント「哲学カフェから学ぶ対話づくりのエッセンス」が開催された。今回のテーマは「つながるってどういうこと?」。1月12日に行われたレクチャー&体験編を踏まえ、今回は実践編として実際の哲学対話を体験するプログラムとなった。

当日の参加者はおよそ30名。はじめに松川さんから、哲学カフェとはどのような活動なのかについて簡単な説明があった。哲学カフェでは「哲学すること」をとても広く捉えているという。それは専門的な知識を競い合うことではなく、「いくつも答えがある問い」について語り合うことだ。むしろ大切なのは、なぜなぜ期の子どものように素直な言葉で問いを立てることだと松川さんは語る。
説明の中で特に印象的だったのは、哲学カフェでは合意形成を目的としないという点だった。目指すのは結論ではなく、「対話そのものを楽しむこと」。そして、もし議論の中でモヤモヤした感覚が生まれたなら、それはその人にとって重要な問いに触れている証拠だから、遠慮せずに言葉にしてほしいという。異なる意見を持つ人の話を落ち着いて聞くことや、自分の意見を安心して表明することが難しくなりつつある現代において、こうした場の設計そのものが重要なのだと感じさせられた。
「つながるってどういうこと?」という大きなテーマは、あらかじめ四つのサブテーマに分解されていた。参加者はそれぞれの問いごとにグループをつくり、対話を行う。用意された問いは、「しがらみと繋がりの境界は?」「繋がりで求めるものは何?」「昔と今で繋がりは薄まっているのか?」「人はどんな時につながろうとするのか?」という四つである。

まずはそれぞれのグループ内で、参加者が「呼んでほしい名前」を紙に書いて足元に置き、その名前で呼び合う準備を整えたうえで、対話が始まった。哲学カフェでは、あえて肩書きや所属といった一般的な自己紹介は行わない。代わりに、呼び名だけを共有することで、必要以上の前提や役割からいったん離れた状態で対話に入ることができるようになっている。
グループ内の対話で特に印象に残ったのは、ある女性参加者が語ってくれた子育ての中での孤独の経験だった。彼女は結婚を機に繋がりのない土地へ移り住んだという。地域のコミュニティには確かに参加していたが、そこにあったのは「役割」であって「繋がり」ではなかったと語る。人は時に、自分の意思とは関係なく関係性を引き受けなければならない状況に置かれる。その中で本当の繋がりを求めることの過酷さや切実さが、静かな言葉の中から強く伝わってきた。

対話の中では、さまざまな視点が次々に提示された。年齢の違う参加者同士が話しているうちに、実は似た感覚を共有していることに気づく瞬間もあれば、似た意見のように聞こえてもよくよく話してみると微妙に異なる立場であることが見えてくることもある。対話が進むにつれて、参加者それぞれの思考の凹凸が徐々に浮かび上がってくる。そのプロセス自体がとても興味深かった。
こうした豊かな議論が可能になったのは、哲学カフェのルールの効果も大きかったのだろう。ここでは書物やインターネットから得た知識ではなく、自分の経験に基づいた言葉で語ることが大切にされる。実際の生活の中で感じたことや体験したことから語られる言葉には、独特の説得力とリアリティがあった。

また、さまざまな年齢層の人が参加していることも対話を面白くしていた。繋がりを健全に保つにはある程度の「繋がりの量」が必要ではないか、という話題になったとき、ある参加者はそれを「自分の中に複数のチャンネルを持つこと」と表現した。別の参加者は「複数のアカウントを切り替えること」に近いのではないかと語る。同じ感覚を、それぞれの生活や経験に根ざした言葉で言い換えていくところに対話の醍醐味があった。
対話の中では、現代のコミュニティのあり方についても話題が及んだ。共同体的な繋がりは弱まりつつあるが、その代わりに誰とも深く繋がれない個人ばかりが増えているのではないか。SNSは確かに便利だが、対面のコミュニティの代わりにはならないのではないか。むしろオンラインと現実の繋がりをうまくミックスしていくことが必要なのではないか、という意見も出た。
気がつけば1時間半という時間はあっという間に過ぎていた。そして最後に、グループ全体で一つの問いに向き合うことになった。それは、本当に繋がりを必要としている人ほど、うまくリーチできないのではないかという問題である。この言葉は、実際に子育て支援の活動に関わっている参加者から語られたものだった。支援の場を用意しても、そこに来られる人はすでにある程度の余裕を持っている人が多い。本当に孤立している人ほど、その場にたどり着くことが難しい。現場で活動する人だからこそ語れる重みのある指摘だった。

今回のイベントで私が強く実感したのは、顔を合わせて話をすることそのものの価値である。同じテーマで意見を募ったとしても、ネット上ではこれほど穏やかで深い議論にはならなかったのではないだろうか。ぬいぐるみを持っている人が発言権を持ち、他の人は聞き役に徹するというルールも、丁寧な対話を支える仕組みとして機能していたように思う。
「つながるってどういうこと?」という問いに、明確な答えが出たわけではない。しかし、互いの言葉に耳を傾けながら考え続ける時間そのものが、一つの応答になっていたように感じる。図らずも、このイベント自体が「つながる」というテーマを体験的に示す場になっていたのかもしれない。
CONNEXIONS展関連イベント
大学連携プログラム 哲学カフェから学ぶ対話づくりのエッセンス「つながるってどういうこと?」
[開催日時]①レクチャー&哲学カフェ体験編 2026年1月12日(月・祝) 14:00~16:30
②哲学カフェ実践編 2026年2月23日(月・祝) 14:00~16:00
[講師]松川えり(哲学プラクティショナー)
[主催]鳥取大学地域学部・丸研究室、竹内研究室
[共催]CONNEXIONS展実行委員会
[協力]TPlat(一般社団法人鳥取クリエイティブプラットフォーム)
企画展〈CONNEXIONS コネクションズー接続するアーティストたち〉
会期|2026 年2月7日(土)~3月22日(日)※終了しました
会場|鳥取県立美術館 3F企画展示室、1Fひろま
主催| CONNEXIONS 展実行委員会(鳥取県、鳥取県立美術館パートナーズ、日本海テレビ、TPlat)
公式サイト|https://tottori-moa.jp/exhibition/view/exhibition-04-2/