ひやまちさととレンレンの
あっちーこっちー
#5 AIR SHIKANO
髙久柊馬
「滞在制作発表展2024」
鹿野学園WS / タカハシマサト
「空想の生き物をつくろう」 プログラム by鹿野芸術祭
コラム「あっちーこっちー」は、鳥取県若桜町でギャラリーカフェふくを運営する、ひやまちさととその家族「レンレン」が鳥取県内で行われるアートプログラムや企画展、イベントなどに文字通りあっちこっち行ってみる様子をお伝えするものです。つい頭で考えてしまう大人と違い、こどもの感じ方は素直で遠慮がない。果たしてどんな連載になるのか、ドキドキしながらお送りします。
さて、このコラムが最終回を迎えるにあたり少し振り返ってみた。このコラムを書いている私、ひやまちさとはタイトル通り「あっちーこっちー」動いているようなイメージを持たれることが多いのだけれど、実のところは人がたくさんいる場所が苦手なため鳥取県の若桜町か鹿野町にいることがほとんどで、他の場所を訪れるきっかけがあるとすれば、それはほとんどアーティストの作品を見に出かけることだったりする。そしてこのコラムに登場する相方レンレンも新しい場所が苦手で、場に馴染むのに時間がかかる性格なため、今振り返るとこのコラム「あっちーこっちー」は私たちにとって冒険であった。
第5回目は、2024年11月16日〜11月17日にかけて鳥取市の鹿野町で行われた、 髙久柊馬「滞在制作発表展2024」と タカハシマサト「空想の生き物をつくろう」そして交流会の様子についてレポートをお届けします。と言っても、このプログラムについて私は運営側でもあるため、いつものように外側を見て回るというよりも、内側からの視点がぎっしり入っていることをご容赦ください。
この展示は鳥取市鹿野町の城下町エリアで行われる芸術祭やアーティストインレジデンスプログラム(AIR)、鹿野学園とアーティストによるWSなど地域に根差したアートの活動を行っている「鹿野芸術祭実行委員会」が主催している。そして私は実行委員として約8年関わっている。
始まりはレンレンがお腹の中にいた臨月の頃にまで遡る。鹿野芸術祭は2016年にドイツから鹿野に移住した画家の藤田美希子さんと「NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会」が始めたアートのイベントで、私は作品を展示するひとりとして声をかけてもらった。今日レンレンに「鹿野芸術祭って何かわかる?」と聞くと「そりゃまあ、あれでしょ。母ちゃんたちがずっとやってるやつでしょ」と、そりゃそうか、お腹の中にいた時から今までずっとそうだったものね。

AIR SHIKANO / 髙久柊馬 「滞在制作発表展2024」
鹿野芸術祭は2016年より、いろんなアーティストが関わり今日まで続いている。2020年よりAIRを中心とした形へ変化し、芸術祭は3年に1回の開催となっている。2025年は11月に鹿野芸術祭が開催される予定だ。そのために2023年より3年間のAIRに招聘アーティストとして参加しているのが、横浜を拠点に国内外でAIRに参加しているアーティスト髙久柊馬さん。1年目の2023年は滞在しながら鹿野学園3年生とのWSで制作した空間インスタレーションを発表。2024年は春と秋の2回滞在し鹿野祭りなどをリサーチ。そして2025年の作品発表に向けた準備を進めている。
髙久柊馬さんとは、「NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会」とご縁のある、東京の「さんさき坂カフェ」で行われた鹿野を紹介するイベント中にAIRの参加希望者を募ってもらい、そこで出会った。面識のないアーティストを鹿野に招聘することは実行委員会も初めてのことだったので、できればもう少しどんなアーティストなのか知っておきたいという思いから、私とレンレンは2023年に長野県信濃大町で開催された「信濃大町あさひAIR」に招聘された髙久柊馬さんに会いに行った。鳥取から長野は遠かった。それこそ私とレンレンの大冒険であった。鉄道を乗り継ぎやっとの思いで辿り着いた信濃大町は、長野県の北アルプスの麓にあり黒部ダムへの玄関口として登山家には有名な町である。そして3年に一度開催される「北アルプス国際芸術祭」も耳馴染みがあった。「あさひAIR」での髙久柊馬さんは、空き店舗を使った空間のインスタレーション作品を作っていて、開催のギリギリまで制作に粘り続けていた。何か材料を調達するためか早朝の商店街を自転車で疾走する髙久柊馬さんを見て、ふむふむ、これは私も頑張らねばと思った。制作に集中してほしいと思い、あまり長い時間は一緒にいなかったけれど、私たちが信濃大町を去る時には「鹿野で待っているね」と伝えることができて本当によかった。そして、2023年11月に髙久さんは鹿野へ来てくれたのだ。

2023年の秋に鹿野を訪れた髙久さんは、日中に町で出会う人が思った以上に少ないことに小さくショックを受けているようだった。私たちにとってその風景は日常なのだけれど。2023年最初の滞在ではどこからどうリサーチをするか、まず糸口を掴んでもらうために鹿野学園3年生との授業でWSを行うことを提案していた。そこで、髙久さんは子どもたちと一緒に鹿野の城山神社がある通称「城山」へ登り、木や葉っぱや石を拾ってくることにした。大小様々なものを持ち帰り、それをラミネートしたものを下から見上げるように展示したり、川から拾ってきた石や木をグループごとに作庭をするように積み上げたりして、展示会場である「Art Cube クチュールシカノ」の空間をいっぱいに満たす作品を発表した。会場には子どもたちやその家族、そして地域の人たちがやってきた。小学生との作品作りということで髙久さんが意識していたのは「この作品は誰の」ということにあまり意識が向かないようにすることであった。よくある子どもの絵コンクールでの展示で、自分の子どもの作品を探して見る保護者がいるが、そういう見方ではないものを提示したかったのだと思う。空間全体が作品になっていることに大人たちは戸惑っていたが、子どもたちは体や心を色々と使って、ものすごく楽しそうだった。例年、小学生とのWSはその年限りなのだが、髙久さんは2年目に鹿野へ来たときも先生と自主的に連絡をとり授業に参加している。その出来事に、AIRを3年間としたことでアーティストが地域に関わることで生まれた新たな広がりを感じた。




そして2024年の春秋2回に分て滞在をし、11月16日〜17日にはゲストハウスになっている「しかの宿 本田中家」にて作品の経過発表を行った。髙久さんは3回の滞在を通して、鹿野の景観や里山との関係性、山の中の古道などに興味をもちリサーチを深めている。2025年の発表に向けて、彫刻作品や絵画作品を森におくことで苔が生えたり藻が生えたりすることを実験的に行ったものが今回の展示で示された。また春の滞在時には東京からデザイナーの杉原有香さんをリサーチャーとして迎え、杉原さんは鹿野が誇る「鹿野祭り」にも興味をもち祭りについてもレポートを執筆した。今までの鹿野芸術祭は、もともと鹿野を知っている人が多く参加してきた傾向にあり、髙久さんのように初対面のアーティストがAIRに来ることは初めてだった。迎える方も、アーティストも関わり方や気持ちの伝え方を色々と工夫しながら、芸術祭という一つのゴールに向けて歩みを進めた。3年という月日はやはり必要だと実感している。
鹿野芸術祭レポートページ
https://shikanoart.com/air-report/
鹿野学園WS / タカハシマサト「空想の生き物をつくろう」
さて、今回はもうひとつ展示をご紹介する。
2024年の鹿野学園とのWSでは、鳥取県智頭町で「九十九製作所」として活動するタカハシマサトさんが講師を担当。小学生と作った作品「空想の生き物をつくろう」の展示が同日で開催された。会場は「Art Cube クチュールシカノ」。
WSの1回目、授業で子どもたちと城山へフィールドワークに出かけたタカハシさんは、まず「空想の生き物」の手がかりとして、山で草木や石、葉っぱや花などをそれぞれ拾い山をおりた。山でのワクワクした気持ちを忘れないうちに、近くにある建物に移動し、子どもたちにスケッチを描いてもらった。後日、子どもたちが描いたスケッチをもとに、タカハシさんが一つずつ木彫である程度の形に切り出した。2回目の授業では、紙やすりで削って形を整え、その空想の生き物たちに名前をつけて、それぞれ学校の校内で生息地を見つけ写真に撮った。そのワークショップの一連の内容と成果物が「Art Cube クチュールシカノ」に展示されていた。展示会場では、参加した子どもたちが家族や近所の人と連れ立って作品を見にきてくれたり、NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会の関連で訪れていた都市部の大学生などが作品を鑑賞したり、それこそ関係人口の多い鹿野らしい風景だなと感じた。


ここまで書いてきて、今回はレンレンの登場が少ないと思われているかもしれないが、鹿野芸術祭に関連するイベント時のひやまちさとは、それこそ「あっちー、こっちー」なのである。いつもは常に私の姿を探してしまうレンレンも、ここでは「まあ、お母ちゃんはその辺にいるだろう」という安心感が有るのか、リラックスしながら色んな人に構ってもらったり、展示されているものに刺激を受け、何か作ったりしている。そしてレンレンはこの日、枝集めに夢中であった。その理由は、、、、

展示の会期中に「WEBマガジンtotto」とのコラボ企画、「AIR SHIKANO 交流会+トットのもちよりパーティー」も開催された。このコラムを読んでくださっている方には耳馴染みがある「もちよりパーティー」はそれぞれの会場ごとに何かをもちよっている。お話しをいただいた時、何をもちよったらいいんだろうなあと考えをめぐらしていたとき、今回のAIRで髙久さんがボソッと「枝、いい枝ないっすかね」と言っていたことを思い出した。そこで「あなたの好きな枝(小枝)をもちよって下さい」ということになった。小枝を持ち寄ると1ドリンク無料という嬉しい特典付きである。
https://totto-ri.net/mochiyori_party20241116/
私は交流会やイベントなど人を誘うのは本当に毎回緊張する。だがしかし、今回は片っ端から思い当たる人に連絡をとった。そこに「小枝を持ってきてね」という言葉が入ると、その緊張がいくらか和らいだ気がする。結果的に、みんながありとあらゆる小枝をもちより、なかには大枝もあり、よくわからないけれど枝を持ってきたよという通りすがりの人もいたりして、この光景ってなんだっけ、と思ったら、かこさとしさんの絵本「カラスのパン屋さん」のあのシーンに似ている気がした。会場には老若男女60人ほどが集まり、美味しい料理と楽しい時間を共にした。
ここまで、コラム「あっちーこっちー」をお読みいただき、ありがとうございました。いろんな地域での活動について触れる機会をいただき、編集部の皆様には感謝申し上げます。またいつも寄り添ってくれた彩戸さんも本当にありがとうございました。そしてレンレンにおかれましては、いつもお母ちゃんに付き合ってくれてありがとう!大好きだよ!ということで、ちょっとベトナムに行ってきまーす!(終)

奈義町現代美術館 常設展
髙久柊馬「滞在制作発表展」
日時|2024年11月16日(土)ー17日(日) 12:00ー17:00
場所|しかの宿 本田中家(鳥取県鳥取市鹿野町鹿野1408)
タカハシマサト+鹿野学園 3 年生 「空想の生き物をつくろう」発表展
日時|2024年11月16日(土)ー17日(日) 12:00ー17:00
場所|ART CUBE クチュールシカノ(鳥取県鳥取市鹿野町鹿野1321)
AIR SHIKANO交流会
日時|2024年11月16日(土) 16:00ー21:00(出入り自由)
場所|稲妻飯店(鳥取県鳥取市鹿野町鹿野1058-2)
主催|鹿野芸術祭実行委員会
共催|鳥取藝住実行委員会
助成|鳥取県令和6年度地域の文化資源を活かした賑わいづくり支援事業/鹿野まち普請の会/中国5県休眠預金等活用事業2021
協力|いんしゅう鹿野まちづくり協議会/鹿野学園
問合せ|鹿野芸術祭実行委員会
鳥取県鳥取市鹿野町鹿野1809-1 しかの心
Mail : shikanoart@gmail.com
WEB : https://shikanoart.com/