野田邦弘
鳥取藝住 —クリエイティブな生き方を求めて
#4 倉吉の円形校舎保存活用へ

2014年から2年間、鳥取県全域で行われた広域アートプロジェクト「鳥取藝住祭」。暮らしとアートが一体となった“藝住”という概念は、プロジェクトが一旦終了した今も、地域と人々の中に静かに息づいているように見えます。一方、県全体を見ると県外からの移住は増加。とりわけ若い世代の移住者が多く、地域の中でそれまでにはなかった新しい取り組みをスタートさせています。
はたして今、鳥取では何が起きているのか。鳥大の特命教授で鳥取藝住祭の実行委員長もつとめた野田邦弘が、“藝住”という観点から紐解いていきます。


10年ほど前、鳥取大学地域学部地域文化学科では、授業「地域調査実習」の一環として倉吉のフィールドワークを行っていました。その過程でわれわれが出会ったのが旧明倫小学校舎でした。戦後のベビーブーム時代、数多くの円形校舎が全国に建設されましたが、そのほとんどは老朽化のため解体されました。そのようななか、旧明倫小学校(坂本鹿名夫設計、1955年2月設計、9月5日完成、9月8日竣工)は、現存する最も古い小学校校舎として貴重な建物となっています。

建物内部の中央に位置する螺旋階段が、1階から屋上までを貫いている。

その美しいデザインの建物に魅せられたわれわれは、2010年、この廃校を使ってアーティスト・イン・レジデンス(AIR)を行おうと考え、地域でまちづくり活動を行っているNPO法人明倫NEXT100といっしょに計画を立てていきました。ディレクターは小田井真美さん(現さっぽろ天神山アートスタジオAIRディレクター)にお願いし、アーティストには中村絵美さんを招聘し、ワークインプログレス方式で円形校舎を拠点に作品を制作発表しました。

螺旋階段の天井には、光を入れるための小さな円形のガラス窓が複数埋め込まれ、周囲のガラス窓に反射する様子が美しい。

大学として倉吉地区でAIRに取り組んだのはこの年だけでしたが、翌年以降も明倫NEXT100は「明倫AIR」として現在まで事業を継続しています。また、明倫NEXT100も所属する倉吉AIR連絡協議会では、倉吉市の全ての小学校区でのAIR展開を目標として現在も活動しています。今年の明倫AIRでは10月から、久保田沙耶さんと、2度目となる中村絵美さんを招へいすることが決まっています。この取り組みは、いくつかの空き屋を創造・交流拠点として整備するなど地域活性化にもつながっています。

建物内部の教室の様子。現役時代、子どもたちは窓を背にして座り勉強していたとのこと。

AIRに取り組む一方で、明倫NEXT100は校舎の保存活用も取り組まれ、それは倉吉市の校舎解体方針を撤回させることにつながります。そして、活用法として、海洋堂、グッドスマイルカンパニー、ガイナックスとの協力により「くらよしフィギュアミュージアム」として来年度オープンすることが決まりました。このように地域の魅力的な資源(円形校舎)と地域住民の活動(明倫NEXT100)にアートプロジェクト(明倫AIR)が関わることで、地域に大きなイノベーションを起こすことができるのです。

写真撮影:里田晴穂


NPO法人明倫NEXT100
http://meirin.info/next100/

明倫AIR
https://www.facebook.com/meirinair/

円形劇場(くらよしフィギュアミュージアム)
https://www.facebook.com/enkeigekijyou/

ライター

野田邦弘

横浜市職員として「クリエイティブシティ・ヨコハマ」の策定や横浜トリエンナーレ2005など文化政策に関わる。文化経済学会理事(元理事長)、日本文化政策学会理事、元文化庁長官表彰(創造都市部門)選考委員、鳥取県文化芸術振興審議会長。鳥取市でアートプロジェクト「ホスピテイル」に取り組む。主な著書は、『アートがひらく地域のこれから』『文化政策の展開』『創造農村』『創造都市横浜の戦略』