長谷川万桜さん前 美里さん(鳥取中央育英高校)
美術部は普通の勉強よりずっと楽しい

県中部のまち、北栄町に位置する鳥取県立鳥取中央育英高校。「名探偵コナン」の作者として知られる漫画家・青山剛昌さんも所属していた同校美術部は、毎年県の高等学校総合文化祭へ出場するなど、活発に活動しています。現在美術部に所属するのは3年生の前美里さんと長谷川万桜さん。顧問の伊東寛敏先生にも加わっていただき、活動の様子や卒業後のこと、また2025年春に新設される鳥取県立美術館について伺いました。


- 普段はどんな活動をしているか教えてください。

伊東:年に1回「鳥取県高等学校総合文化祭」の美術・工芸部門の公募展(高校美術展)があり、そこに向けて制作をしています。県大会の段階で7番までに入ると、全国大会にも行けるので結構力を入れていて。1,2年生の時は作りたい立体作品のために素材をいろいろ試し、作品に合った素材で制作しています。あとは割と自由に作りたいものを作ったり描いたりしています。

- この作品はおふたりが描いたものですか?

:こっちは2年生の時に私が描いた平面です。好きなもの描いていいよって言われて描いたものなんですが、最初は違ったんですよ。ボールペンで細かくいっぱい描いて絵にしようかなって思ってたんですけど、なんか違うなって思いながらやっていて。
そしたら、休憩でアメコミ漫画を見て描いているのを伊東先生が見て「あ、こっちの方が面白いよ」って言われたんです。それで、この方向に変えました。

「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパー『Pass me!』撮影中の前さん(左)と長谷川さん(右)

- 表現するテーマとか扱う素材が決まっているわけではなく、基本的に自由に自分で決めていくんですね。

伊東:そうです。まず好きなものを作ってもらって、作り始めた後にどうイメージに近づけるのかが大事かなと思っています。針金の立体作品も、銅の前にアルミとか鉄の針金を使ってみて、やりやすいのを探ったりして。段ボールの立体作品も、最初は段ボールだけで作りかけたけど、きれいにできないので「いっかい剥がすか?」ってなって、濡らして剥がして乾かして、作り直しました。

長谷川:美術部は、普通に勉強するよりずっと楽しいです。でも実は私たちが卒業すると部員がゼロになってしまうので、心配しています。絶賛部員募集中です!

- 卒業後は、おふたりとも県外に出られる予定なんでしょうか?

:私の第1希望は富山ガラス造形研究所という学校です。試験はこれからなんですが。

- ガラス!? わー、すごい。ガラスに興味を持ったのはいつからですか?

:ん-、他の素材も見たんですけど、やっぱり興味があったのがガラスだったんです。本当の最初は、テレビのドラマで、ガラスをつくっている職人さんが出ていたんです。沖縄が舞台で。それで「きれーっ!」て思って。そこからちょこちょこ調べてやってみたいなって思ったんです。たぶん小学校の時。

伊東:けっこう前だね。「前さん」だけに。(一同笑い)



:子どもの時からつくるのが好きだったんです。造形とか。ものづくりの仕事がしたいとはずっと思っていました。

- 小学生時代からの思いを温めてこられたんですね。長谷川さんはいかがですか?

長谷川:卒業した後、私は岡山県立大学に行きます。推薦で決まりました。

- おめでとうございます!大学ではどんなことを勉強するのでしょうか。

長谷川:プロダクトを学びたくて。将来、義手とか義足とかをデザインできたらと考えています。
すごくかっこいい義足をつくっている人をインターネット上で見つけたんです。そういった作品が少ないので、自分でも作れるようになりたいと思いました。ソフィー・デ・オリベイラ・バラタ(1)という方が作者の方で、イギリスの人工義肢デザイナーです。

ー 岡山県立大学ではそういった義肢の勉強もできるのですか?

長谷川:専門的にはできないのですが、卒業制作で補助具を作ってらっしゃる方がいらっしゃったので、似たようなことが学べるのかなと思って。

ー こんな風に考えておられるなんて、先生は知っておられましたか。

伊東:一応ね(笑)。作者の名前は知りませんでしたよ。パラリンピックとかで影響があったのかなと思ったんですけど、そうでは無くもっと前から気になっていたみたいです。

長谷川:いつかは忘れたんですけど、モデルさんがその義足をオリンピックの開会式で着けていたので。冬だったのは覚えています。中学生の頃には作品を知ったんですけど、興味を持ってしっかり調べたのは高校に入ってからだったと思います。
めちゃめちゃ中二くさいけど、普通の人とは違うものを持っていて、それが尚且つかっこいいのがいいなって。SFっぽいカッコよさも持っているのがいいなって思ったんですよね。

- 2025年の春に鳥取県立美術館ができることは知っていましたか?

:2年上の先輩がフリーペーパーづくりのワークショップなどに積極的に参加されていたこともあり、知っていました。今はコロナ禍でワークショップ自体が開かれず、私たちは参加したことはないのですが、すごく興味があります。

- 将来のことはまだ分からないと思いますが、進学を機にそのまま県外や海外で活躍される可能性もきっとあると思いますし、あるいは鳥取に帰ってこられるかもしれない。未来にできる美術館がどんな場所になっていたらいいなと思いますか? あるいはどんなところだったら足を運びたいですか。

:そもそも、鳥取県立博物館が遠いところにあるので今まで行けなかったんです。なので、近くになるなら行けるなって。

長谷川:あまり美術の作品を見に行くことが少なかったので、有名な人の作品が観たいです。義肢の展覧会って、企業的なPRが絡んだ展示とかはあるんですけど、客観的な視点でキュレーションが入っての展示はあまり聞かないです。知らないだけかもしれませんが。

- 昔は美術の枠で捉えられていなかったものが、今は捉えられているものも多いですよね。枠がどんどん広がって、義肢も美術館にコレクションされていく時代も来るかもしれませんし、将来的に長谷川さんが作った義肢が展示されるなんてことも、起こりうる未来だと思います。

長谷川:はい、そうですね。そうなったらとてもいいなと思います。

〈おわり〉

1.義肢装具士、The Alternative Limb Project 創設者。義手や義足を人体に近づけるのではなく、着用者の個性やスタイルに合わせ開発してきた。最新のテクノロジーと伝統工芸を組み合わせたデザイン性の高い義肢が高く評価されている。https://www.instagram.com/thealternativelimbproject/  https://thealternativelimbproject.com/


※この記事は、令和3年度「県民立美術館」の実現に向けた地域ネットワーク形成支援補助金を活用して作成しました。また、鳥取県立博物館が発行する「鳥取県立美術館ができるまで」を伝えるフリーペーパー『Pass me!』06号(2022年3月発行予定)の取材に併せて2021年10月にインタビューを実施しました。記事の内容は取材時の状況に基づいており、現時点との相違がある場合がございます。ご了承ください。


鳥取県立鳥取中央育英高校
県中部のまち、北栄町に位置し、「名探偵コナン」の作者として知られる漫画家・青山剛昌が卒業生にいる。美術部は毎年県の高等学校総合文化祭へ出場するなど、活発に活動している。2022年4月以降の美術部員を絶賛募集中。http://www.tottori-ikuei.jp/

ライター

水田美世

千葉県我孫子市生まれ、鳥取県米子市育ち。東京の出版社勤務を経て2008年から8年間川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉県)の学芸員として勤務。主な担当企画展は〈建畠覚造展〉(2012年)、〈フィールド・リフレクション〉(2014年)など。在職中は、聞こえない人と聞こえる人、見えない人と見える人との作品鑑賞にも力を入れた。出産を機に家族を伴い帰郷。2016年夏から、子どもや子どもに目を向ける人たちのためのスペース「ちいさいおうち」を自宅となりに開く。