「アイデンティTシャツ」
ーもしも鳥取で100人の手掛けたTシャツが並んだらー
ここにしかないアート&カルチャーの今を追うレビュー。鳥取で日々動き変化する場所や人々の姿を、丁寧に記録し蓄積していきます。つくるって何だろう、くらすって何だろう、について、少しだけ真面目にレポートします。今回は、鳥取市のギャラリーで、ありとあらゆる人たちを巻き込んで実現させたユニークなTシャツ展です。
鳥取駅から北に徒歩5分。若桜街道と智頭街道の間のアーケード「サンロード」を、県庁方面に向かって足を進め、飲食店、雑貨屋などを通り過ぎると、左手に「ギャラリーそら」があります。ここで、4月23日から30日まで、鳥取の様々な分野で活躍している100人以上がデザインしたTシャツを紹介する展覧会が開かれました。
企画をしたのは、ギャラリーそら代表の安井敏恵さん。ギャラリーを開いて14年、定期的に足を運んでくれるお客さんはたくさんいるけれど、最近はその顔触れが定着していると感じたのがきっかけでした。アートはみんなのもの、もっといろいろな人にアートを身近に楽しんでもらいたいと、テーマに選んだのは誰でも気軽に見ることができる「Tシャツ」です。シャツプリントサービスも手掛けている鳥取画材の協力のもと、100枚以上の個性豊かな「アイデンティTシャツ」を製作することにしました。
もうひとつこだわったのが「出展者」です。画家・イラストレーター・デザイナー・写真家・造形家などいつもギャラリーに出展してくれる人たちに合わせて、表現することを本職としていない人たちにも積極的に声をかけました。
展覧会初日、ギャラリーを埋め尽くしたのは、県内外から集まった出展者たちによる106組108枚のTシャツ。プロの作品に合わせて、梨農家・釣り人・寿司屋・マジシャン・住職・タクシー会社・学生・地域おこし協力隊など、多種多様な人たちが手掛けたTシャツが並びました。
決まり事はただひとつ。どこかに必ず“鳥”を入れること。白いTシャツをキャンバスと見立て、そこに自分の作品や好きな言葉、職場や活動団体のロゴなどがデザインされています。
ギャラリーの近くで雑貨店を営む男性は、「とり・トリ・鳥・tori・bird」と、様々な文字と色を使って“鳥”を表現し、「鳥取にはいろいろな人がいる、いろいろな生き方がある」という思いをデザインに込めました。また、留学中の大学生のTシャツは、海外で撮った写真に「Free as a bird」と文字を刻み、「鳥のように自由に」という今後への決意を表現しているようでした。
自由な発想のTシャツをきっかけに、ギャラリー内のいたるところで会話も生まれました。釣り人の男性がデザインしたTシャツには「DESU DESU WA TOTTORI NO HOUGEN DESU(『ですです』は鳥取の方言です)」と記されていて、来場者たちが「確かに言うなぁ!」とか「『ですです』って方言なん?」などと方言の話題に花を咲かせていました。
あらゆる垣根を取り払って開催した展覧会の客足は好調で、この企画で初めてギャラリーに足を運んだという人も大勢いたそうです。
ギャラリーそらの次の展覧会は、「公募展『交差展』vol.9」<会期:5月4日(木)~10日(水)>。毎年開催している人気企画です。ジャンルを問わず誰でも応募でき(※募集は終了)、会期中は作家同志の交流会もあるということで、鳥取で表現活動をスタートさせる作家の皆さんの登竜門のような展覧会になっています。
まちの小さなギャラリーが、鳥取でアートの裾野を広げ、作家を育てています。
ギャラリーそら
鳥取市栄町658-3 駅前サンロード
0857-29-1622
http://www.gallery-sora-kuu.com/