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2018.3.2

Rock, Paper, Scissors / 石 紙 鋏 シンディー望月展
ガイド・トーク レポート

 2018年3月11日(日)まで米子市美術館にて開催中の展覧会「Rock, Paper, Scissors / 石 紙 鋏 シンディー望月展」。会期初日に行われたガイド・トークでは、作品が生み出された背景となる、戦前に弓ヶ浜半島からカナダへ渡った開拓移民たちの歴史や、中海にあった料亭「たつみ」にまつわる話などが紹介されました。


4年の歳月を経て生まれた展覧会
本展アーティストのシンディー望月さんは日系3世のカナダ人。今回の約4年に渡る作品制作についてこう述べた。「まるで旅をしているように、カナダや米子で調べて、人々と会っていくうちに、これは“Calling”ではないかと思った」
“Calling”は、「神のお召し」「使命」などと訳せる。人知を超えた力に引き寄せられたとでもいおうか、起こるべくして起こったと感じたそうだ。
企画監修をしたキュレーターの原万希子さんは、3年半前の2014年にAIR475のプロジェクトではじめて米子に来た。以来4年間でカナダから米子へ6回も訪れた。「この4年間で、赤ちゃんから90代のおばあちゃんまで出会ったたくさんの人々と友情を築いてきた。米子は故郷のようなもの」と語る。

作品が生まれた背景について語るアーティストのシンディー望月(右)さんとキュレーターの原万希子さん(左)

4年の月日を経て壮大な物語になった作品を米子でみることができるというのは感慨深い。この展覧会を主催しているAIR475(エアヨナゴ)代表の来間直樹さんは、「誰かが記録しないと消えてしまう日々の生活の上に、我々が今生きていると気づかされた」と挨拶した。
シンディーさんと原さんの米子への強い想いと、AIR米子のメンバーをはじめとした協力者の力が結集してできたのだなと感じた。

ガイド・トークが行なわれた初日は250名以上の来館者があった。人々の関心の高さがうかがえる。

オープン・アーカイブ・ルームから読み解く作品世界
今回の展示には「オープン・アーカイブ・ルーム(開かれた記録の部屋)」と名付けた部屋も用意されている。作品のアイディアに繋がる様々な資料を自由に閲覧することができ、作品への理解を深めることができる。弓ヶ浜半島からカナダへ開拓移民が渡っていき、今も鳥取県人会が存在しているということは初めて知り、驚いた。知ろうともしなかった昔の米子市民の生活や普段考えない自分のルーツなどに思いを巡らすきっかけになる。何か懐かしく、こころが開き、ゆったりとした時間だ。私の頭にも映像がよぎっていく。

作品に登場する「呼び寄せの手紙」は、米子市出身の移民・磯島義忠が親族に宛てた手紙から着想を得た。複製が展示されている。

企画監修をした原さんは、2014年の最初の訪問時、鳥取県米子市・境港市と島根県安来市の間に位置する汽水湖・中海(なかうみ)に案内された。「昔、中海はこのまちの経済の中心で、夕日が広がると赤く水辺が染まり、まるで錦のようだということで錦海(きんかい)とも呼ばれていたんです」というAIR475の来間さんの説明に、カナダでの同じような風景(カナダでは「ルビー・レイク」という)が直感的に重なったという。そして、その中海を遊覧した際、船頭の住田済三郎さんがふと語った「中海の無人島・萱島(かやしま)には、昔、美しい女将さんが切り盛りする料亭があった」という話は、シンディーさんに大きなインスピレーションを与えた。

調べていくと昭和9年発行の商工会議所の案内に料亭「たつみ」の広告を発見。「たつみ」が実在した証にぞくぞくした。2016年には萱島に上陸しての調査を実施し、料亭「たつみ」についての情報を求めると笹鹿克美さんと黒安よし恵さんという80代90代の2人から証言を得ることが出来た。笹鹿さんは残念ながら展覧会を待たずに1月に他界されたが、萱島に関する思い出を文章に残してくれた。

作品の中のアニメーションで使用された人形なども、オープンアーカイブルームに展示されている。

時代も場所も異なる3つの物語が、「穴」を通じて繋がる
〈Rock,Paper,Scissors / 石 紙 鋏〉は20世紀はじめに多くの鳥取県人がカナダへ渡った史実と、石炭=石、木材=紙、鋏=鉄という3大天然資源を題材にしたカナダと日本の関係を橋渡しする内容。3つの章からなる短編小説のような構成をもち、マルチメディア・インスタレーションという現代美術における表現手法でつくられている。空間全体が作品となり、全身で見て、聞いて、触って、体験をすることができるのだ。

入ると右手に大きなスクリーン。各章を通じてメインのイメージが投影される。左手には昔のカメラのようなものが。家族をカナダへ呼び寄せるため、豊かであるように装って撮影した写真が多く残されている史実から、カメラの形を用いている。カメラを覗くとそこには炭鉱を進んでいく炭鉱夫たちの姿が。時折聞こえるカナリヤの声は、炭鉱ではガス漏れ探知にカナリヤを使っていたという事実からとっている。その右のアニメーションは穴の中を貨車で行き来している。日本人は小柄で狭い炭鉱では重宝されていたそうだ。奥には料亭「たつみ」を模した模型。これは岩の島で杭など打てないだろうとの見解と証言をくれた黒安よし恵さんのスケッチを参考にしている。
各章のストーリーをメモとして記しておく。

薄暗い展示空間の中で、各章の物語について概要を説明するシンディーさんと原さん。

〈紙/ Paper〉:料亭「たつみ」を舞台に女将さんである「K」という主人公がしじみスープとかき揚げをふるまっていて、そこへ英語をしゃべる男性の幽霊が、「呼び寄せの手紙」を置いていく。読んでいると「穴」があいて、カナダの森が見えるという話。この幽霊のモデルは、森を買って成功を収めた米子出身の磯島義忠という人物で、彼が家族にあてた「呼び寄せの手紙」がカナダの日系博物館にあったという事実から。その磯島は森で消息不明となった。そして、正装をして森にいる男たちの写真もカナダ日系美術館で発見された。でもそれは家族を呼び寄せるためのわざと裕福なふりをしたフェイクな写真であったという事実。

〈鋏/ Scissors〉:未来の話。とてつもなく大きな巨人がたたら製鉄で時空に「穴」を開けることのできる鋏を作っている。そこへ死に切れていない幽霊の「K」が穴を通ってやってくる。巨人は「K」に思い出と引き換えに目をみえるようにしてあげると持ち掛ける。ここで登場する巨人は米子の子どもたちが描いた絵が元になっており、オープンアーカイブルームに100点以上が全て展示されている。

〈石/ Rock〉:「K」はまた時間を昔にさか戻り、友人と占いをしている様子。カナダの移民先で中国式の占いをしていた事実からヒントを得ている。お父さんは炭鉱夫で地下にいる。カナダにいて、米子から移民した中田という人物が銀の懐中時計を回すと「穴」があいてまた萱島の料亭「たつみ」に戻るという話。

米子とカナダで集めた本当の話が織り込まれながら、シンディーさんの空想の話が繋がり膨らんでいく。年代も300年の間を行き来し、舞台は日本とカナダを行き来する。

〈鋏/ Scissors〉の章に登場する巨人の絵は、2016年の夏に実施したワークショップで子どもを中心とする米子の人達が描いた。

中海は海を通じて世界へ広がっている
カナダにも日本にも、戦前の幸せな記憶と、戦中・戦後の強制収容など忌まわしい記憶がある。萱島にあったであろう料亭「たつみ」は日露戦争後の豊かな米子の時代を象徴しているのではないか、とシンディーさんは言う。いつのまにか人々の記憶から消え去った「たつみ」の姿が、忘れ去られていく日系移民の苦難の歴史と重なり合った。それは、シンディーさんのルーツを想像する時間でもあったのだろうか。

米子に住む私の中で中海は、当たり前すぎてたいして気にも留めてこなかった。だが、原さんは「中海は、海を通じて世界へ繋がっている。その価値を今一度見直していったらどうだろう」と言う。興味深い歴史が外からの視点で開かれていく中海。今回のガイド・トークに参加するなかで、私の中で生まれた興味の「水たまり」が、ひとつふたつと生まれいって、それぞれが少しずつ大きくなって、それが繋がって広がって膨らんで、どこかへ流れ出していくように感じた。カナダに渡った開拓移民や料亭「たつみ」を通じて語られる中海が、私の中でただの湖ではなくなった。

いつの間にか記憶からなくなっていく「たつみ」のようなもの、日々の暮らしで見過ごしてしまうものは、きっとたくさんある。もう少しだけ、あれ?と思ったことに素直に向き合ってみようと感じた。

展覧会会期中の毎週末に、シンポジウムやワークショップなどが予定されている。会期は3月11日(日)までで、観覧無料。お見逃しなく。

写真:カヤノ写真機店


AIR475 2017/米子市美術館 共催展
「Rock, Paper, Scissors /石 紙 鋏 シンディー望月展」

会期:2018年2月25日(日)-3月11日(日)[毎週水曜日休館]
時間:10:00-18:00
会場:一般財団法人 米子市文化財団 米子市美術館(第3・5展示室)
観覧料:無料


今後のパブリックプログラム 
※すべて参加無料

シンポジウム「海を越えてカナダと繋がる山陰地方の歴史と風土を巡って」
日時:3月3日(土)14:30 ~17:30
モデレーター:原万希子(本展キュレーター)
登壇者:
河原典史(立命館大学 文学部地理学教室教授)
アレクサンダー・ギンナン(鳥取大学 地域学部国際地域文化コース助教)
シンディー望月(本展アーティスト)

米子の記憶を語り聴く会「中海と弓ヶ浜半島の昔ばなし」
日時:3月4日(日)11:00 ~12:00
ゲスト:
住田済三郎(わらい通り協議会会長)
早原彰子

見える人と見えない人が一緒に楽しむ鑑賞ワークショップ
日時:3月10日(土)14:30 ~16:00
ゲスト:広瀬浩二郎(国立民族学博物館グローバル現象研究部准教授)
共催:わらべ館(公益財団法人鳥取童謡・おもちゃ館)


AIR475事務局
Tel. 090-2409-7984(水田)
〒683-0845 鳥取県米子市旗ヶ崎9-21-22(クルマナオキ建築設計事務所)
Fax : 0859-24-1945
E-mail : info@air475.com
http://www.air475.com/

一般財団法人 米子市文化財団 米子市美術館
〒683-0822 鳥取県米子市中町12番地
Tel : 0859-34-2424
http://yonagobunka.net/p/yonagobunka/y-moa/news/2/

ライター
つのださちこ

つのださちこ

東京の住宅会社やインテリアの会社で勤務した後米子に移り、現在はフリーで、インテリアや整理収納のコンサルタントとして活動中。子育てママとして奮闘中。女性目線、ママ目線での仕事ぶりは多くの方から評価を得る。

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