レポート:鳥取夏至祭2020

6月21日、鳥取市のわらべ館で「鳥取夏至祭2020」が開かれました。今年は新型コロナウイルスの感染が広がるなか、現状でも可能な開催の形を模索し、県内在住の出演者は会場で、県外者はオンラインで出演し共演する形となりました。その様子をレポートします。


鳥取夏至祭(以下、夏至祭)は2017年にスタート、毎年県内外の様々な場所からダンサーを中心としたパフォーマンス・アーティストを招聘し、鳥取の街中を舞台に即興パフォーマンスによるセッションを行ってきた(https://tottori-geshisai.jimdofree.com)。4回目となる今年も、各地からアーティスト招聘する予定だったが、新型コロナウイルスの感染防止のため一度は開催を断念。その後出演応募者との相談の結果、現状でも可能な開催の形をと、県内在住の出演者は会場のわらべ館でパフォーマンスを行い、県外の出演者はオンラインで共演する仕方で開催が実現した。

もともと夏至祭は、予算のない中で創造的な試みを行うことを模索し、その場で思いついたことを即興する「遊び」として行なっていた。「ついつられて踊ってしまう」が本来のダンスの力だと、主催の木野彩子さんは考えており、その点でも即興に重点を置いたプログラムは、ダンスの本質に近いものだった。そのためこれまでは短期集中型の催しだったが、今年は、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行を受け、参加したアーティストのうち中心メンバーが週2回オンラインで密に交流し、より時間をかけて育てていくものになったという。ミーティングに参加したメンバーは夏至祭に何度も参加している各地のアーティストで、首都圏ではスタジオごと閉まっていたり、フランスのメンバーは外出もできない状況だったため、その中で週2回の交流は、それぞれにとって貴重なクリエーションの時間にもなっていた。当日のパフォーマンスが久しぶりの本番だったと話す出演者もいた。

即興音楽とダンスのワークショップ
当日はまず、夏至祭のパフォーマンスの前に、13時半から子どもを対象としたワークショップ「おととからだであそぼう!即興音楽とダンスのワークショップ」が行われた。これは木野さんを中心に毎月わらべ館で行っているもので、今回は同日開催ということもあり、夏至祭の一部ともいえる位置づけだった。これまでにも夏至祭では、毎年プログラムの最後に出演者によるワークショップを行ってきた。県外からやってきたアーティストが、当日即興でパフォーマンスを行い、鳥取の街と人と仲良くなって、そのお礼としてワークショップを行う。このように夏至祭の中でワークショップは、ダンスを介した交流を次へつなげて帰るという、重要な意味を担っている。今年は例年のようなプログラムを組むことはできなかったが、それでも開催されたワークショップは、このところなかなか思い切り体を動かすことのできなかった子どもたちにとって、また大人たちにとっても、屋外で心身を開放する貴重な機会となったのではないだろうか。

ウイルス感染予防のため、ワークショップの前に手を洗う子どもたち

明るい日射しのなか参加者の多くは裸足になって、まずは鬼ごっこ。時節柄、体の接触は避けたいので「エアタッチ」で。体に触れられないと、なかなか自分が鬼になったのかどうかわからず戸惑う参加者もいるように見えたが、触れないことで、普段当たり前に行なっている身体接触の意味を捉え直す機会になったように思う。その後は楽器を使って音をパスするゲーム。一人が相手へ向けて自由に音を発し、相手はそれを全身の身振りで受け取って、次の相手にパスする。これも見えないもの・触れられないものをやり取りするワーク。休憩中にはわらべ館のミストが噴き出し、その後子どもたちは、水鉄砲を持って水を浴びせあったり、芝生に寝転がったりと、自由な空間を存分に楽しんでいた。14時半になるとワークショップ参加者は室内に入り、プロジェクターでホールに投影されたzoomでスタンバイしている夏至祭参加者たちと即興セッションを行った。

音をパスするゲーム。中央は夏至祭に参加した渋谷千里さん

この日の連続講座のワークショップには講師がいたが、もともと夏至祭で行ってきたワークショップには進行役がおらず、誰がリーダーかわからないまま遊び尽くすという仕方で行なっている。リーダーはいないが、全員がやりたいことをやりながら身体で感じる共有感覚をもっていて、終わりが来たら自然と誰ともなく遊びは終わっていく。一度このような感覚を体験していると、次やるときにはだいたいみんなわかるようになる。そう木野さんは言う。そしてこの感覚は「空気を読む」とはちがっている。「空気」には何らかの「権威」が働いているけれど、このワークショップではみんなが平等で、だからたとえみんなが終わった後一人で続ける子がいても、冷たく見つめたりはしない。それぞれの意思が一人の意思として尊重されつつ、身体を通じた共有感覚を持てる体験で、このようなあり方が、複数の人々の集合として形成される現実社会のあり方にもなったらよいと、木野さんは考えている。

会場とオンライン上での即興セッション
子どもたちとのワークショップが終わり、15時半からは夏至祭の本番。わらべ館の各部屋で鳥取から参加するアーティストは踊ったり音楽を奏で、それを動画で配信した。エントランスホールのスクリーンには、館内と各地のアーティストが画面上に登場してセッションを行う様子が映し出され、またインターネットでも配信された。

配信された映像の最初の部分。この日は夏至と日食が重なり、それを筒で覗く動きが取り入れられた

筆者は会場にいたので、ホールでの配信映像とその前で踊る木野さんのダンスを見ながら、わらべ館の様々な場所にいる出演者のパフォーマンスも見に足を運んだ。すると現実の空間で行われていることと画面上に出現するパフォーマンスは、だいぶ異なるという印象を受けた。アイヴァンさんの、子どもたちと外の階段を昇り降りする映像には、鳴っていた音楽とも相まってzoomの小さな一コマの中に、空間が広がり単調な運動が繰り返される、見る者との間に距離がある印象を与えられたが、外に出てそこへ行ってみると、ただ子どもたちとアイヴァンさんが笑って遊んでいる、楽しそうな様子があった。屋上で、わらべ館の塔を活かすように手の動きを使って踊っていた田中悦子さんは、その場に行けばダンサー本人が空間の中にいるのが見えるのだが、映像では広い空の下にいるダンサーというより、どうしても塔が中心に目に入った。

エントランスホールのzoom映像の前で踊る木野さん
左から二つ、上から5つ目がアイヴァンさん、左から4つ、上から5つ目が田中さん
中心に見えているのは田中さんが一緒に踊っていた、わらべ館の塔

配信によるパフォーマンスの全体は、いくつかルールが決められていたものの、基本的にはそれぞれが自由に即興で踊っていた。画面上では互いの様子が見えるので、それぞれの動きや音が相互に影響を与え、それにつれて全体のパフォーマンスも徐々に変化していく。踊りながら常に全体を見渡すのは難しいので、近いコマで踊っている人の映像に注意するなど、互いの身体が同じ空間にないオンライン上での即興のあり方は、今回出演者も練習を重ねる中で新たに見出していったようだ。筆者はオーケストラのメンバーがそれぞれzoomを使って全体で曲を奏でるという映像は見たことがあったが、オンラインでこれだけの人数の即興パフォーマンスを見るのは初めてだった。

最近は多くの人が実際に接触するのを避けるため、オンラインによるやり取りやイベントが増えてきた。それらのうちのほとんどは、もちろん各人にとって切実な営みとして行われているものだが、同時にその形が普及するにつれ、ある種の窮屈さや退屈さを感じることもある。夏至祭でもパフォーマンスが行われている空間を実際に見ると、それぞれが全くちがったことをやっているのに、映像に現れるとそれらが同一平面上に置かれ、規格として統一される印象があった。それは自らの場所にとどまりながら異質な時空間に触れる可能性を開く一方、画面上では同質的なものとして表出され、見る者もタッチやクリックをするだけの反応しかできないので、単調で受動的なかかわり方になってしまう。しかし夏至祭に参加し、実際の空間で行われていることを見て、その延長上に映像内で行われていることへの回路が見えてくると、オンライン空間の奥行きへの想像が、ずっと広がってくる気がした。現実の空間とオンライン体験が複層的に組み合わされることで、オンライン上に見出される世界に「手触り」が生まれ、より深く触れようとする主体性が自分に生まれていたように思う。

今年の夏至祭は、例年とはあり方が異なるとはいえ、開催中止となりかける中、現状でもできることをメンバーによる対話の中で模索し、互いの身体が遠くにある状況での共演を実現させた。そのこと自体に、夏至祭の中心にある「即興性」が働いていたように思える。オンラインの可能性を追求することも、切実で、それ自体創造的な営みでもあるが、路上や広場で実際に人と人が出会って交流する偶然性や即興性の追求が、夏至祭の本領だ。今回新たな感覚を共有したアーティストを中心に、来年以降夏至祭がどのように展開していくのか、楽しみに思う。

当日はわらべ館を鳥取のアーティストたちが踊りながら案内し、わらべ館専門員長嶺泉子さんの解説付きの映像で紹介する試みも行われた。これは鳥取に来られなかった出演者のために、館内を紹介する意味もあり、現在もその様子はWebページで見ることができる

写真:蔵多優美、水田美世


鳥取夏至祭2020

公式ホームページ
https://tottori-geshisai.jimdo.com/

お問い合わせ先:
鳥取夏至祭実行委員会
鳥取大学地域学部附属芸術文化センター 木野研究室内
(0857-31-5130/geshisai2020@tottori-u.ac.jp)

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。