レポート:途中の現時点—「聞いて書く、その先」現時点プロジェクト

日常の中にある小さな驚きや、忘れられていた大切なことを発見し、映像や写真で記録・公開してきた「現時点プロジェクト」。2月23(日)には、メンバーの中山早織さんによる聞き書きを通じた新たな試みがスタートしました。


僕は現時点プロジェクトについては「バス停と椅子 写真展」やこのtottoの波田野州平さんによる連載「映像みんぞく採集」で知っていた。「私はおぼえている」という企画も映像をYoutubeで観た。彼らの企画は自分が思いもよらない発想や違う視点で自分自身の幅が広がるような感覚を味わわせてくれる。

それが僕にとってはとても新鮮で心地いい。
今回の企画は正直どのようなものかわかってなかったけど、きっと面白い企画だろうと思って参加してみた。そういう自分の直感というのはだいたい当たる。

最終的なアウトプットは今後現時点プロジェクトの方から発表される予定とのこと。タイトルにある「途中の現時点」という表現は、最終形態に至るまでの現段階をシェアする場として今回のイベントが設けられた。
なので、実際の聞き書きの内容は今後発表されるものを観ていただくのが早いと思うのでここではこのイベントに参加した中で自分の気になったこと、感じたことを中心に書いていく。

イベントに参加した感想として、最初は映像がないのかとガッカリした部分はあったが、しばらく経つとそれは全くの杞憂であることに気づいた。写真と文章と朗読という、映像よりも情報量が少なく思える手法をとっていたが、むしろそれが良かったし、結果として非常にわかりやすくて面白かった。

映像は具体的に取材対象を生々しく映し出すだけに、観てすぐに理解できるという良さがあるが、視点が固定されることにより想像の余白が少なく感じる。
文章だけだと、個人差が出やすいので取材内容の理解に時間がかかる。
それと比べて、この写真と文章と朗読という手法は、受取る側の想像の余白が大きいと感じたからだ。

今回は、中山早織さんが中心となって倉吉市在住の92歳の向井克さんにお話を伺った記録の途中発表会だ。
前半は中山さんが聞き書きで作った何編かの文章をメンバーの河原朝子さんらの写真と共に朗読。後半は映像作家の波田野州平さん、会場「ムリーノ・ビアンコ」の店主である上所俊樹さんを交え、現時点プロジェクトのメンバーとして各々が考える「記録すること」についてのディスカッションが行われた。
前半の中山さんの朗読では向井さんの色々なお話があったが、向井さんの話以上に中山さんが聞き書きをしている時の心境の変化を綴っていることが僕にはもっとも印象的だった。

最初は中山さんは話を聞き出しに行っていたが、だんだんと会話を楽しみに会いに行くだけに変化していき、向井さんの方もそれに呼応して変化していく。
聞き書きという筆者の主観性をなくすと思っていた行為が、相互に作用して変化をもたらす。
僕にはそれが人と人が関わるということで、さらにイベントを見聞きしに集まった人達にも変化をもたらし、新たに命を繋げていると感じる。

向井さんは昭和初期生まれの人なので、彼女の話は僕にとって非常に遠い話だと思っていた。
しかしながら、実際に今回のような自分の住んでいる地域の過去の話を聞くと、自分から遠い話だと思ってたことが生き生きと命を持ち、その延長線上にいる自分を感じた。

自分が生まれてから世界が始まったわけではないので、それは本当に当たり前のことだと頭では理解してたけれど、わかった気になっていたなぁと嘆くと同時に、そのように体感できるのだなぁと嬉しかった。

学校の教科書で習ったような、面白いが自分と関係のない話のように思えてしまう偉人の話ではなく、市井の人の話というのも体感が湧きやすかった点だと思う。

僕が実際に大阪のニュータウンという歴史が浅い地域から、時間が止まっていたかのような倉吉市に引っ越してきて、昔から住んでいる人が多い山奥の集落の中で都会生活とかけ離れた暮らしをしているので、余計に体感できた。

そういうことを踏まえていたからこそ今回の話が自分が現在住んでいる土地に昔から住んでいる人の話だと繋がっていると感じた。

自分は昔からここに住んでなかったのにそう感じるのは本当に不思議な感覚だけど、その新しい感覚を僕は嬉しい。
また、そういう体感は命の繋がりを考えるきっかけになった。
このような聞き書きで生きた痕跡を少しずつ残し続けていくことが、生命の営みというか命を繋ぐことなんじゃないだろうか。

メンバーのPONZさんによってデコレーションされた空間

イベントの最後の方で向井さんのご子息が「母親の違う一面を知った」というようなことを仰られていた。
家族であっても知らないことは多くあるだろうし、家族だから違う一面を知っとかないといけないということもない。
ただ、家族だからこそ知らない一面を知ることで感じるものがあるのだろうなぁと思うと、僕はこの聞き書きにはとても意義があると思うし、いつか僕も親の違う一面を見聞きしたいものである。

このイベントに参加して、どんな人であっても人間一人一人が生きること自体が物語であり、非常に面白い。

そして、その命の軌跡を残すという行為は、残すという以上の色々な作用が巻き起こり、聞き手や書き手、家族、観客、地域の人、その他大勢に波及していく。

本当にそれは命というものの奇跡であり、面白いところだと思う。
かく言う僕もその縁でここに感想を書かせていただいている。
不思議なもんですが、ありがたいことです。


現時点プロジェクト
2017年1月にスタートした、日常の中にある小さな驚きや、忘れられていた大切なことを発見し、記録・公開するプロジェクト。いつもの暮らし・いつもの風景に価値を見い出し、消えてしまうその前に現時点に生きる私たちで残していきます。

https://www.instagram.com/genjiten2017/

ライター
小島慎司

小島慎司

1984年大阪生まれ。大阪と東京育ち。大阪のWeb制作会社で10年程、馬車馬のように働いていたが、2017年に妻の体調不良をきっかけに環境のいいところへと考え岡山へ移住。その後、もっといい環境を求めて妻の実家がある鳥取に移住。現在はフリーランスになり、倉吉の山の中で細々と活動中。色々な人やモノ、コト、イベントとの出会いを通じて、住んでる地域でも移住者視点で何かできないかと模索中。卓球好き。