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2017.11.22
  • アーティストが見つめる「物と心の相関関係」―明倫AIR2017 滞在成果発表会―

鳥取県倉吉市で2010年から毎年行われているアーティスト・イン・レジデンス(※)のプログラム「明倫AIR」。第1回招聘アーティストの中村絵美さんが、今年再びアーティスト&ディレクターとして明倫地区に滞在。アーティストの久保田沙耶さんと二人で、倉吉のまちの歴史や伝説、地元ゆかりの作家などをリサーチし「物と心の相関関係」を約1ヵ月半にわたって考えてきました。今月25日(土)~27日(月)は成果発表会として展示とトークが行われます。


来春、「くらよしフィギュアミュージアム」としてオープンする鳥取県倉吉市の旧明倫小学校円形校舎。現存する最古の円形校舎を廃校後も残していくために、2010年に校舎内で芸術家の滞在制作と作品発表を行ったのが明倫AIRのはじまりです。第1回の招聘アーティストが当時大学4年生だった中村絵美さん。今年の明倫AIR2017で招聘アーティスト&ディレクターとして再び倉吉市明倫地区に滞在しています。

フィギュアミュージアムが出来るタイミングで、地域にとってのアーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは何かをもう一度見つめ直したいと、主催する明倫AIR実行委員会から中村さんに声がかかりました。

アーティスト・中村絵美さん

「7年前に明倫地区の皆さんが私のような美術学生をアーティストとしてとにかく受け入れてくださったというご恩をずっと感じていました。その後、私はまちづくりや観光の仕事をして働きながら、アーティストとして活動してきました。お話を頂いた時はそのスキルを全部持ってきて力を試せるんだという思いが強かったです。かなり気合いを入れてやっています。」と中村さん。

明倫地区は、古くから農機具などをつくる鍛冶屋が並んでいたものづくりのまちです。造形のアーティストに戻ってきてほしいという地元の声も事前に聞いていた中村さんは、滞在制作のパートナーとして瀬戸内国際芸術祭2013で「漂流郵便局」という作品を手がけたアーティストの久保田沙耶さんを招きます。リサーチでの地域共同体への入り方やアートプロジェクトとは何かとの思いも共有して、今年のプロジェクトがはじまりました。

アーティスト・久保田沙耶さん

中村さんと久保田さんは丁寧な地域のリサーチの上に作品を作ろうと、10月に約2週間のリサーチ期間、11月に約3週間の制作期間を設け、滞在制作を行ってきました。
特に注目したのが、倉吉に拠点を置きながら全国的に活躍した板画家の長谷川富三郎さん(1910-2004)です。彼が記している<物と心の相関関係>という言葉を軸に、彼の作品や文献を調べたり、まちあるきをしながら地元の人の話を聞いたりして、長谷川さんの作家としての痕跡を辿りました。その中で印象的だったこととして、久保田さんは「長谷川富三郎さんは、山陰民具に自転車で行って、その後、写真家の高木啓太郎さんのところでお茶をしてから板画を摺りに行っていたと話を聞いた。作品は残っていても、実際に生活していたアーティストの暮らしの痕跡を聞くことはまずないので驚きでした。ここに暮らしていたからこその強度がある作品を生み出せていたんだと思った。」と語ります。

板画家・長谷川富三郎さんも通っていた「山陰民具」
リサーチを進めると、三朝町の美術館に長谷川作品が約700点収蔵されていることがわかった

二人は今回、長谷川富三郎さんを地域に暮らす“先輩アーティスト”として捉えて学ぶという視点を持ち続けてきました。「自分たちが、お客さんでなく、アーティストとしてここに滞在して何を作るのかと自問自答しながら追い詰めている」と語る中村さんには、今回のプロジェクトの先に、倉吉にアーティストが来る意味や、普通に暮らしている人たちの中にも長谷川さんや高木さんのような地域の暮らしに根ざしたアーティスト(郷土作家)がいることを知ってもらいたいという思いがあります。

リサーチは二人で日々対話を重ねながら進めることができている上、中村さんは二度目の倉吉滞在で土地勘と人脈もあるため、今回はかなり深いところまで潜ってディテールを追えていると二人は揃って胸を張ります。
リサーチを元に作る作品の一つは、長谷川富三郎さんの技法を模して、文字と絵で表現する平面作品。地元の長谷寺に伝わる白馬伝説などにインスピレーションを得て、中村さんが詩を書き、そこから久保田さんがイメージを形作って板木を焦がしながら絵を描きます。また別に中村さんと久保田さんの各々の作品も制作予定で、二人とも新しい技法を取り入れるなど、これまでにない表現に挑戦できているといいます。

作品制作中の久保田さんと中村さん

久保田さんは「ここでは、受け入れてくださる皆さんがわかりやすいアウトプットよりも“明倫AIRをきっかけに作家として育ってほしい”とおっしゃってくださる。これまで暮らすことと作ることが肉体的にも精神的にも分離していたが、心を介して物を見るというのがどういうことなのか日常生活の中で少しずつ考えられるようになってきているなと感じる。」と話していました。

明倫AIR2017でのリサーチや滞在制作の様子はブログ(https://meirinair2017.localinfo.jp/)でも紹介しています。約1ヵ月半の過程を踏まえてどんな作品が仕上がるのか会場でお楽しみください。

(※)アーティスト・イン・レジデンス(AIR)・・・ 各種の芸術制作を行う人物を一定期間ある土地に招聘し、その土地に滞在させ作品制作を行わせる事業のこと。


明倫AIR2017 滞在成果発表会
会期|11月25日(土)-27日(月)
時間|11:00-18:00 ※毎日16:00から作家による作品解説あり
会場|いわくら大黒座(鳥取県倉吉市東岩倉町2239)※倉吉淀屋10m西
料金|無料

いわくらラボ トーク「倉吉の被災の歴史」
話者|眞田廣幸(前倉吉博物館館長)
日時|11月26日(日) 18:30開場 19:00開始
会場|いわくら大黒座(鳥取県倉吉市東岩倉町2239)※倉吉淀屋10m西
料金|無料
予約|不要

問い合わせ|NPO法人明倫NEXT100 080-1928-9141(川部)

プロフィール
久保田沙耶(アーティスト)
http://sayakubota.com/
1987年、茨城県生まれ。筑波大学芸術専門学群構成専攻総合造形、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画修士課程、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻油画研究領域卒業。
日々の何気ない光景や人との出会いによって生まれる記憶と言葉、それらを組み合わせることで生まれる新しいイメージやかたちを作品の重要な要素としている。焦がしたトレーシングペーパーを何層も重ね合わせた平面作品や、遺物と装飾品を接合させた立体作品、さらには独自の装置を用いたインスタレーションなど、数種類のメディアを使い分け、ときに掛け合わせることで制作を続ける。個展「Material Witness」(日英大和基金)や、アートプロジェクト「漂流郵便局」(瀬戸内国際芸術祭2013)など、グループ展多数参加。

中村絵美(アーティスト)
https://eminakamura.blogspot.com/
1988年、北海道生まれ。北海道教育大学岩見沢校教育学部芸術課程美術コース、明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。リサーチプロジェクト「長万部写真道場研究所」主宰。
自然観察や狩猟体験を繰り返しながら、作品イメージを組み立てている。類比的思考によって、環境からイメージやストーリーを取り込んで構成されていく作品世界観は、日本各地を行き来することで広がりを見せてきた。近年は、地域社会の歴史的社会的な背景、風景、動植物を綿密に取材し、立体物、映像、写真などを使って、場所と事象のイメージ化、物質化を試みている。
明倫AIR2010年度招聘作家として、倉吉市で滞在制作の経験がある。グループ展等多数参加。近年は、まちづくり会社等にて、文化系事業の企画やディレクションに従事。

ライター
濱井丈栄

濱井丈栄

1979年広島市生まれ。フリーアナウンサー。元NHKキャスター・リポーター・ディレクター。広島・鳥取・東京に勤務し、自ら取材し自分の言葉で伝えることを生業にしてきた。2014年、夫の転勤で再び鳥取へ。同年立ち上がった「鳥取藝住祭」の事務局にたまたま声をかけられたことをきっかけに、アートをいかした地域づくりに関わるようになる。最近の趣味は、さまざまな作家さんのワークショップに行くこと。特にものづくり系が好き。photo:田中良子

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