レポート:
『モヤモヤの正体 迷惑とワガママの呪いを解く』
出版記念トーク「掟から離れて旅に出る」

鳥取を度々訪れているライターでインタビュアーの尹雄大さんの新著『モヤモヤの正体 迷惑とワガママの呪いを解く』(ミシマ社、2020年1月)。3月6日にはその出版を記念してのトークが県中部の町・湯梨浜にある書店「汽水空港」にて行われました。
私たちが信じている価値や感性のありかを尋ね、モヤモヤが自分自身に何を訴え掛けているのかをじっくりと考察する本書。その中でも述べられている「正しさ」や「みんな」などいくつかの要素に焦点を充ててのトークになりました。


仕事、夫婦、子供のことから、コロナ問題や森友問題……日頃から「モヤモヤ」とは切っても切り離せない私の日常。県内各所にも度々お越しの、尹雄大(ユン ウンデ)さんの新刊のタイトルは、『モヤモヤの正体 迷惑とワガママの呪いを解く』。1月に尹さんの読書会に参加した際、タイトルを聞いてずっと楽しみにしていました。
実際に、読ませてもらい、「んんん〜」と唸ってしまった私。先日、テレビを観ていたら、成人式で「女性諸君は男性の胃袋を掴みましょう!」と教師がお祝いの言葉として話しているのにモヤモヤしたばかりだったのです。このことはもちろん、この出来事のモヤモヤを人に話したら、「相変わらず戦ってるね〜」と言われたけど、私はいつも、こういった類のことを言われ続けて、戦ってるんだ! 理不尽なことと戦うことの何が悪いの? とモヤモヤ。こんなことを自分の娘が言われたら、たまったもんじゃない。え、でもあなたはこのこと、どう思う? 他人事なの? なんだろ、この気持ち……。次から、次へとモヤモヤモヤ……。
長々とレビューを書きたいところですが、今回は、この本の出版記念トークイベント、「掟から離れて旅に出る」のレポートです。

3月初旬、平日にも関わらず、松崎にある「汽水空港」の狭い店内には多くの参加者。トークイベントは、「最近モヤモヤしていますか」という、店主の森さんの問いかけから始まりました。話題は、世界を騒がすコロナウィルスのことから。尹さんも、最近ではコロナ騒動のことをよく尋ねられるそう。最近のニュースでは、この問題が嬉々として語られているところがあるのでは、と言う尹さん。不安になりたがっている現代の人々。「正しく恐れる」ということは、変であり、なぜ慎重に、と言えないのか。本にも出てくる「正しさ」について、尹さんと森さんが、自らの経験を元にトークが繰り広げられました。

「守ることと、陣地を譲ることは違う」と尹さん。「自分がまずどうしたいのかってことがわからないから、守ることもできない」

イベント後半では、参加者から出た、最近モヤモヤをしたことを聞き、なぜモヤモヤしたのかを、尹さんがゆっくりと深く掘り起こしていきます。
私のもっとも印象に残った話は、尹さんのインタビュアーとしての姿勢から展開された話の部分。「共感が必ずしも重要ではない。感じられないけれど、生じている同調にどれだけ注意を傾けられるかが大事。同調が生じると、相手の言ってる意味がわかならくても何を目指しているかわかる。共感は自分の経験でしか相手を測れない」
「解釈することなく、相手の話を聞いた時に起きる出来事がある。共感できなくても、その人の話を“その人の話”として聞くことはできる」。いつも穏やかな尹さんの声に、力強さが込められていたように感じました。わからなくても良い、思いを巡らせること。私のモヤモヤの正体もわかったような気がします。尹さんのこの本にもある『この紛れもなく「私が感じている」ということは誰にも侵せない』ことは、自分の心の中に大切に持ち続けたい。モヤモヤの正体に対峙した時に、私たちがそこに向き合うヒントとなるお話がたくさんあったトークイベントでした。


尹 雄大 / Yoon Woong-Dae
1970年神戸生まれ。関西学院大学文学部卒。テレビ制作会社を経てライターに。政財界、アスリート、ミュージシャンなど1000人超に取材し、『AERA』『婦人公論』『Number』『新潮45』などで執筆。著書に『体の知性を取り戻す』(講談社現代新書)、『やわらかな言葉と体のレッスン』(春秋社)、『FLOW 韓氏意拳の哲学』(晶文社)など。『脇道にそれる:〈正しさ〉を手放すということ』(春秋社)では、最終章で鳥取のことに触れている。
http://nonsavoir.com/


汽水空港
住所|鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18
kisuikuko@gmail.com
出発(開店)|11:00
最終便(閉店)|19:00
欠航便(定休日)|木曜日
アクセス|JR山陰本線 松崎駅から徒歩約7分

ライター
磯崎つばさ

磯崎つばさ

1981年福岡生まれの一男一女の母。大山町在住。学生時代はイスラムを学び、その後百貨店バイヤー、編集・ライターとして働き東京から鳥取へ。風呂のない家に移住し、風呂を夫に作ってもらいました。大山町に来て一番興味深いのは郷土史。史跡巡りの会にも所属しています。憧れの人はフリーダ・カーロ。photo:YUSUKE SHIRAI