南 阿沙美(写真家)#3
焦りじゃなくて、迷わず行けよっていう感じ

まもなく始まる鳥取・島根で開催する「島根のOL」写真展。写真家の南阿沙美さんの、一瞬一瞬のきらめきを切り取るようなシンプルな生き方は、まるで彼女の写真そのもの。考えに追いつかれる前に、行動にうつす自由さはどこからやってくるか、南さんの核心に迫ります。


― いま、撮影している人はいるんですか?

:ついこの間、さっきも話した昔から撮っている親子(南 阿沙美(写真家)#1 参照)が新潟の佐渡島に行くと聞いて、付いて行きました。この親子はいま小学5年生の息子がお腹の中にいるときからずっと撮ってて、母親の身長をぬかすところまでは撮りたいと思ってます。成長するにつれて「写真とるんじゃねえよ」っていう時期が来てお母さんしか写ってない時期があってもいいと思ってたけど、今のところ機嫌が悪くてもカメラを向けるとピースとかしますね。佐渡島では、母と子が、海で、おのおの過ごして、遊んでる感じを撮影してきました。毎回、一緒に遊びに行って撮る感じでやってます。

写真シリーズ「親子写真入門」より

― 南さんの写真は、待つタイプというか、それとなく仕込むじゃないですか。この先、考えていることはあるんですか?

:あまり長い目で計画はしないかも。ただ、可能性のあることは大体する。結構手数は打つんです。天才じゃないし、すごい能力があるわけじゃないから、100やってそのまま100結果が出るわけではないから、100ぐらいやって、2結果があればオッケーかな、という感じで考えてます。可能性はないかもしれないけど、やっておくことは、撮影に関係なくあるかもしれないです。ちょっとした一つ一つの選択は、なにか可能性のある方を選びます。逆に誰かになんかあるからおいで、って誘われたときは、行くときと行かないときもあります。
友人に突然キューバに行かないかと誘われたときは、前に観たキューバの映画ですごく街の光がきれいで、なにか撮りたいことに出会えそうだなと思って行きました。また何回か行きたいなって思っています。一度、「光の肉」っていうタイトルで、webサイト『2⊿_7』で数枚は発表してます。

写真集『島根のOL』(salon cojica、2019年8月)より

― タイトル、どの作品もいいですよね。

:タイトルを決めるのが好きなんですよ。「島根のOL」もなんか周りの反応がいいし、親子の写真をいっぱい撮ってる作品も、「親子写真入門書」ていう入門書があったらおもしろいなーと思って、それでZINEをつくったことがありました。撮っている時は、「光の肉」とかタイトルのことは考えていないです。写真と言葉との組み合わせは、写真を撮ったあとにアウトプットについて考えます。「島根のOL」ってたった5文字の言葉なんですが、これが「島根のOL」ってタイトルじゃなかったら、全然違ったと思うんです。だからアウトプットするときに、作品の名前を付けてあげることで、作品が一人歩きするのを見送るような。もしくは、こういう名前の作品があったらいいなとイメージします。「だれかの彼氏」ってタイトルも気に入ってます。

過去に、写真と短歌の展示をやったことがあって、五七五七七で。いまは短歌を書いてないんですけど、一時期、すごく書けるときがあって、あれも不思議で、一生懸命考えているときはあんまりいい短歌ができなくて、いい短歌と思うときは、30秒ぐらいで書けて、すごく不思議です。いまはしばらくやってないんですけど、イタコ芸みたいな感じですかね、やってくる感じ。

写真集『島根のOL』(salon cojica、2019年8月)より

― アウトプットは写真に限らない?

:写真しかやらない、はないですね。自分が思ってる自分のテイストってなんぼのもんじゃと思っていて、所詮自分の判断って小さいから、なんかあんまり自分の可能性を狭めすぎないようにしています。アウトプットの方法はあんまり拘りはないかな。例えば他にもし、芝居の依頼があったら考えるかもしれない。私は写真以外はやりませんとかは言わないです。全部一緒だと思うんですよね。料理をする、畑をする、ごはんを食べる、写真を撮る、どれも同じぐらいの感じなんです。それが面白いか、美味しいか、上手かどうかは別だけど。行為に関しては別に似たようなものだと思ってます。何事も特別なことはないんじゃないと思っていて。楽器も修行というか練習が必要で、もしわたしが今小学生だったらこれ習っておこうと思うことはあるかもしれないけど、大人になった今、何をやっても既に遅いなら逆に何やっても一緒で何でもやっていい気がします。今ってときに始めていいと思うんです。オリンピックに出たい!とか何かで優勝する!とかじゃないなら。

昨日、汽水空港で韓国語の講座があって、それめちゃくちゃいいなって思いました。テストがあるわけでもなく、だれかに命じられたわけでもなく、覚えたいから勉強する会で、分かんないことはすぐに隣の人に教えてもらったりとか、眺めててすごくいいなーって思ったんですよね。なんかそういう気持ちでいれたらいいかなと。

― いま、写真集にしようと思うのは、なぜですか?

:写真集にすれば、ひとに渡せる。ひとが買って家に持ち帰られる。私だけのものじゃなくなる。自分が良いと思ったものが他の人にとっても良いものになったり、好きなものになる。ということが本という形になったらできるから。本がずっと作りたかったんです。人の手に渡るように。撮らなかったら、この本が生まれないんですよ。このOLは観た方がいい、観ないのはもったいないって思って。島根にこんなOL がいるなんて。ほんとに、観て!みたいな気持ちの、自然な行動。

写真集『島根のOL』(salon cojica、2019年8月)より

― すごい。ほんとに自然。先に撮りたいものがあって、みんなに見せたいから写真集をつくる。めちゃシンプル。今回の本を作るのに大事にしたイメージってあるんですか?

:友だちを被写体にした写真集を2冊ほぼ同時に出版したけど、特別な人じゃないように見えて実は日常に潜んでるすごい人物みたいな、よほどの人たちだったからここまで撮れたと思ってます。まだ島根のOLをどこでどうやって出版するか決まってない時期にある編集者に相談したとき、「いろんな県のいろんなOLを撮るのはどうですか?」と言われたこともあったけど、この作品はそういうことじゃないなと思いました。実は最後のおまけのページに、島根に来た時に遊ぶ仲間にも普段の仕事着で登場してもらってます。病院の相談員、印刷会社、保育園の人など、普段私服でしか会わないから、こうやって働いてるんだーって、なんか感動しちゃいました。

あるとき、ふと自分が思いつくことはいっぱいあって、たとえば、写真って収集する機能もあるから、いいと思う人に出会えたら、こういうふうに本にしてお披露目する作業はすべきだなって。まだ世に出してない写真がいっぱいあるんですよね。

写真集『島根のOL』(salon cojica、2019年8月)より

― 南さんが自由にできるのは、センスを信用してるからですかね?

:センスっていうか、感覚的な、思し召し。神の思し召し。イタコ芸。笑。最近イタコ芸って言ってる。美意識かな?美意識というイタコ。撮ってるときに「もっと右」「ちょっとふりかえって」とか。先に口から出るんです。考える前に先に口から出ることを信用してるところはあります。考えるよりも、もっと自分が先に発見したものを信用しているというか。

一回感動したことがあって、人の顔をぼんやりみてたときに、いいな、悪いな、好きだな、嫌いだなとかの気持ちを抱く前に、涙が出たんです。そのときに、考えるまえに、何かが先にとおって涙が出たことに驚いて、そっちを信用しようと思ったんです。だから、「もうちょっと右」も、「なんで右なんですか?」って聞かれたら、「もうちょっと右」って言ったときの自分は、「右がいいと思ったから」っていう理由ぐらいで。子どものときに、お気に入りの靴下があったり、ピンク色が好きだったりした感覚の方が信用できると思ってます。大人になると、理由が先にあって、こっちの方が売れそうだから、ウケが良さそうだからとか、いろいろあるんですが。写真は、一瞬で終わっちゃうから、早くしないといけない。だから、ほんとに、写真集『MASTUOKA!』の後書きでも書いたんですけど、追いつかれる前に、やらないと。自分にとっての一番のときめきみたいなものがすぐいなくなっちゃう。

― それはやっぱり、写真で鍛えられたんですかね?

:そうかもしれないです。もっといろいろ考えてた時期に、迷ってるうちに終わってしまった経験があって。その実感があるから、早くしないといけないと思ってるかも。焦りじゃなくて、迷わず行けよっていう感じ。写真だとより分かりやすい。その瞬間が終わっちゃったら、もう撮れないから。だから、人間も一緒で、肉眼で見えることをもっと信じていいというか、こうかもしれないって思ったことって、だいたい合ってるんじゃないかと思っています。でも、そうじゃないかもしれないって疑って考えてるうちに終了してしまうから、だったら可能性のある方に手を付けとくみたいな。そういうことを繰り返してます。

その分、恥ずかしい思いもしてるけど、一個一個ふりかえったら恥ずかしくて生きていけないから忘れるようにして(笑)。私は考えてうまくいったことはないから、考えてやることは無理だからしない。だから、「なにやっても遅いから一緒」と思って、自由にやることと、「白い服にカレーうどんつけて、諦めて楽になる」ことは大事なことなんです。

撮影協力:汽水空港

《おわり》


南 阿沙美 / Asami Minami
1981年北海道札幌市生まれ。2014年キヤノン写真新世紀優秀賞受賞。2019年5月に写真集『MATSUOKA!』(Pipe Publishing)、8月に『島根のOL』(salon cojica)を発表。そのほか「親子写真入門」「sheHerHers」「オートマチック乙女ちゃん」「ハトに餌をやらないでください」等の作品を個展・グループ展で発表している。
http://minamiasami.com


写真展『島根のOL』
会場|Y Pub&Hostel(鳥取県鳥取市今町2丁目201 トウフビル1F・2F)
日時|2019年10月8日(火)-10月29日(火) 午前の部7:00-10:00/午後の部18:00-24:00
http://y-tottori.com

会場|NU(島根県松江市白潟本町10番地 園山ビル2F)
日時|2019年11月2日(土)-11月4日(月)14:00-21:00
※11月2日(土)、3日(日)両日とも19:00からライブイベントあり
http://nurecords.jp

写真展『MATSUOKA!』
会場|汽水空港 (鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18)
日時|2019年8月28日(水)-9月18日(水)11:00~19:00 ※会期終了
https://www.kisuikuko.com

会場|ラーメンやんぐ(静岡県三島市北田町6-21)
日時|2019年9月23日(月)-10月12日(日)11:30-15:00、17:30-20:30 ※木日、第一・第三水曜定休

ライター
蛇谷りえ

蛇谷りえ

1984年大阪生まれ。2012年に「うかぶLLC」を設立し、共同代表の一人。うかぶLLCでは、鳥取県は湯梨浜町にある「たみ」と、鳥取市にある「Y Pub&Hostel」を経営している。また、鳥取大学地域学部教員の合同ゼミ「鳥取大学にんげん研究会」やアートプロジェクト「HOSPITALE」のマネジメントなど、ある世界の中で、サテライト的な関わりであれこれつなげるのが得意。”外”担当。 photo:Patrick Tsai