タクシー王子(?)の
とっとり裏道案内 #8
旧吉田医院が11月8日まで特別公開中

鳥取の中堅タクシー会社の若き御曹司・松浦秀一郎(通称、タクシー王子)が、ガイドマップに載っていないお薦めのお店、通り、おみやげ物、絶景スポット、旬な動きなどをご紹介。タクシーだからこそ知っているディープでオツな情報を、バックミラーごしにこっそりお教えします。


毎度ご乗車ありがとうございます。サービスタクシーの松浦です。

もしかしたら全国的にも珍しいことだと思うのですが、鳥取ではなぜか廃病院がアート鑑賞の現場となることがしばしばあります。鳥取市中心市街地にある旧横田病院ではアーティスト・イン・レジデンスの制作発表が、また岩美町にある旧岩美病院では岩美芸術祭が開催されています。無機質ながらんどうの空間が展示の場として適しているのか、それとも様々な感情の入り混じる非日常の跡と人々の意識をつなぐ媒介としてアートが何らかの影響をもたらすからか、あるいはかつてのまちの象徴的な存在だった場所を活用することが地域活性化に寄与するからか、といろいろな想像が湧いてくる「アートと廃病院」という組み合わせ。今度じっくり考察できたらと思っています。

そんななかでも特に重要なのが、鳥取駅から歩いて2~3分のところにある旧吉田医院です。

旧吉田医院は、平成の初期まで開いていた耳鼻咽喉科医院で、また用の美を追求した民藝運動における重要人物である吉田璋也が1931(昭和6)年に開院した医院でもあります。明治31年に医師の家庭に生まれた吉田璋也は、医学の道を進む傍ら、柳宗悦河井寛次郎らと出会い、うつわや家具など日用品のなかにある美を見いだす民藝運動に参加しました。

現在建っている旧吉田医院は、昭和27年の鳥取大火にて焼失した後に再建されたものですが、その建物をはじめ、中にある家具類のほとんどを設計したのが吉田璋也本人。それらはどれも実用性を重視してつくられており、また同時に美しい。例えばハイチェア型の診察椅子は、一見中国の伝統的なデザインのようでありながら、耳鼻咽喉科であるため患者が咥内をみせやすい姿勢になるよう設計されていて、しかも座面を回せば高さ調整ができる。手術台は幅が狭くも中心が逆アーチになっていて包まれるような安定感がある。その他にも机からゴミ箱にいたるまで、すべてがよく計算されていて、その実用性に感心するとともにどことなく懐かしさをおぼえるデザインに心がやすらぎます。

《私の生活はいかにも、医者と民藝と二兎を追うようにも見え、医者が本業で民藝は道楽か趣味の余技の仕事だと思われているでしょう。だが私にとっては、民藝の心で医者の仕事をしているので、二兎でもなく一つなのです》(『民芸入門』保育社)

旧吉田医院のパンフレットに、このような吉田璋也の言葉がありました。美しく便利なものを追求するという考えは、スティーブ・ジョブズがアップルの製品に美しさとともに直感的な操作性を追求したこととも通じる気がしますし、そうした考えは今日のプロダクトデザインにおける基本のキのような感さえありますが、“過去と現在”また“様々な文化”を結ぶ吉田璋也の試みは、ノスタルジックで普遍的な魅力を私たちに提示している点で注目すべきもののようにうつります。

近所にあるアーティストたちの滞在拠点「ことめや」オーナー岩原秀和さんがガイドをしてくださいました

鳥取ではいま、クラフトワークに関連した展覧会がこのほかにも開催中です。それが鳥取県立博物館で11月15日まで開催されている『ザ・フィンランドデザイン展』。森や海、氷といった自然に着想を得た有機的なデザインの器やテキスタイルをはじめとして、フィンランドのデザインの歴史を俯瞰して観ることができます。クラフトワークにまつわるふたつの展覧会をめぐることで、自然や社会、人々の暮らしといった日常のなかにあるさまざまな関係を新たに発見することができるかもしれませんよ。

本日はご乗車ありがとうございました。


今回のお薦め裏道スポット

旧吉田医院 限定公開
期間|2020年9月5日(土)-11月8日(日)
場所|鳥取民藝美術館(鳥取市栄町651番地)の向かい ※受付は鳥取民藝美術館にて

関連事業|3Dデジタルミュージアム・ウォークスルー
3Dデジタルミュージアム・ウォークスルーにより、実際に鳥取民藝美術館および旧吉田医院の館内を歩いて鑑賞する感覚を味わっていただけます。
https://takumikogei.theshop.jp/blog/2020/07/27/182816

 

ライター
松浦秀一郎

松浦秀一郎

鳥取市出身。約2年前に東京からUターンし、実家のタクシー会社に就職。地域に貢献する公共交通であるという強みをいかして、鳥取をよりおもしろくするキッカケとなるべく、日々活動している。“何もない = 何かがある”地元の暮らしを楽しむため、プライベートでもまちの動きにアンテナを張り、地元の隠れた魅力を見つけることが喜び。