トットローグ2021 アーカイヴレポート #1

昨年7月10日、対話のためのプラットフォームづくり、トットローグがスタートしました。トットローグでは対話の内容をアーカイブし、鳥取で暮らす人たちのコモンズ(共有物)とすることを目的の一つとしています。Vol.5まで開催する中で今年度の各回の内容をふり返りながら、アーカイブとしてレポートを公開していきます。まずはvol.1とvol.2、vol.2の続きの会のレポートです。


トットローグvol.1「対話のためのプラットフォームづくり」2021年7月10日
鳥取でこのことをみんなと話したい、話した方がいいんじゃないかと思うことがあったとき、鳥取のどこかにそれについて話しができる場があったらいいのではないか、そう思ったことが企画のきっかけでした。トットライターのnashinokiと編集部の水田さん、そして以前からトットで「日常記憶地図」の企画にかかわっているサトウアヤコさんに協力をお願いし、トットローグが始まりました。

コロナ禍でスタートしたためオンラインの開催で、まずは「対話のプラットフォームづくり」というテーマで対話を行いました。初回のテーマをどうするかについては、当初ゲストを呼んで具体的なテーマを取り上げようと話していましたが、最初はまず企画の3人が対話やプラットフォームについての考えを話し、後半はそこへ参加者が加わってもらうことで、さらに視点を広げる時間を設けようと考えました。鳥取にかかわる具体的なテーマを取り上げ話をはじめる前に、まずはトットローグの土台について対話の俎上に乗せ、参加者にこちらの考えを聞いてもらったり、意見をもらうことが重要ではないかと思ったのです。前半はツイキャスで3人が話し、後半は配信のチャットにURLを公開して、前半を聞いてくれた方の中から参加者を募りました。オンライン会議システムzoomを使って対話を行い、後半はサトウさんが主にファシリテーションを行いました。

初回で話した内容については、vol.1以前に企画について知ってもらう目的でツイキャス配信により行った「トットローグ(仮)準備室 公開会議」で、3人が対話やプラットフォームに関してもつ背景を含めた意見を持ち寄った中から、より普遍化できそうなテーマを抽出しました。「対話のプラットフォームにおけるコモンズ(共有物)」「誰かに『わからない』と言えない」「続けること」「個と共同性」がそれで(最後の「個と共同性」については時間の関係で取り上げることができず、vol.5のテーマになりました)、後半には前半で取り上げた、話している相手に「わからない」と言えないという話題が、参加者の発言により新たな方向へ広がりました。参加者には、自身で対話の場を開くなど、対話というテーマに関心の高い人が多く、それぞれの実践の方法や、その中での経験について話してくれました。

前半のツイキャス配信は、企画側で何度も話していたこともあって、配信機材の準備や内容を公開することへの緊張はありましたが、打ち合わせていた内容をさらに掘り下げることができました。後半はオンラインで深く意見を交わす難しさがあり、前半の対話と後半の内容、また参加者同志の個々の意見が、やや別々に並存していく印象がありました。それぞれの間にオンライン上で相互作用が起こるような時間を作るにはどうすればよいかという点は、その後の課題となりました。また初回終了後にはアンケートを行い、開いてみたい対話の場のテーマについて参加者に聞きました。鳥取に対話のプラットフォームについて関心をもつ人が多く、それぞれに話してみたいテーマがあるとわかったことは、誰でも使える対話のプラットフォームの実現に向け、まずはその人たちにトットローグを実験的に使ってもらえばよいのではないかというアイデアにつながりました。またこの回で取り上げた話題を、一年間トットローグで考え話していくことにもなり、その意味でトットローグの方向性を示すような会にもなりました。

トットローグvol.2「何が価値を創造するのか?」2021年9月5日
当初はサトウさんが来鳥し、対面で対話の場をつくることを考えていましたが、covid-19の流行の第5波と重なったことから、オンラインに切り替えての開催となりました。Vol.1では、対話のプラットフォームとしてのトットローグで、どういうことをしようとしているのかをテーマとしましたが、vol.2ではゲストを呼び、鳥取にかかわる特定のテーマについて話す会を開催することにしました。前半はゲストによる話題提供、後半に参加者が対話を行う構造は、充実した対話の場が成立するためには「共通の前提」が必要という考えからでした(1)。参加料については初回は無料で行いましたが、以後は運営の資金面での理由から有料とし、参加者の申し込みや情報管理は、コロナ禍で利用が普及したオンラインのチケットシステムpeatixを利用し行いました。

Vol.2のテーマは、ゲストに招いた鳥取県立博物館学芸員の赤井あずみさんが2020年に企画した展覧会「ミュージアムとの創造的対話03 何が価値を創造するのか?」(以下「03展」)について取り上げたかったことから選びました。対話のプラットフォームのアイデアは、もともとnashinokiが同じ県立博物館で開かれた「岡本太郎展」を見た際、展覧会を見た人たちと感想を話し聞いてみたい、そういう場が鳥取にあったらよいと考えたことがきっかけでした。そのモチーフをトットローグで実現することを考えた際、展示空間に圧倒され、企画者にいろいろ考えを聞いてみたいと思っていた「03展」を取り上げようと思ったのです。「価値」というテーマについても、個々人によって価値が相対化された時代に、新たな「共通の価値」をつくることは可能かという問いがあり、またコロナ禍で県外との往来が難しくなる中、これまで話を聞く機会のなかった身近な人に、改めて話を聞いてみたいという関心も芽生えていました。

とはいえ実際に企画を進めるうちに、「03展」を対話のテーマとすることは、思いの外難しいことだということがわかってきました。対話の前提を揃えるために赤井さんに話題提供してもらうことにしたものの、参加者の中には展示を観ている人と観ていない人がおり、展示空間を体験することに重きが置かれた展示でもあり、赤井さんによるスライドを使った説明を受けたとしても、前提を揃えるのが難しいテーマだったということを後で考えました。またテーマを選んだnashinokiのゲストに対する説明が足りず、前半で対話を十分に展開できなかった点、またそのこともあり後に予定していたサトウさんの鑑賞側としての体験の話や、後半の参加者との対話のなかに、前半をうまく位置づけられなかった点に反省が残りました。とはいえ後半は、鳥取でアートの活動に関わる参加者が多く、現代アート全般についてゲストに質問したり、やりとりをする時間になりました。参加者それぞれの創作や鑑賞に関わる多様な問題意識を交わす場となったこと、またそれを専門家である学芸員に伝えることができたことは、有意義な点だったように思います。

トットローグvol.2の続きを話す会 2021年10月25日
その後vol.2では時間内に話しきれない話題が多かったことから、鳥取市内の「プロジェクトスペース ことめや」で前回の参加者を対象に、続編の会を開きました。ここではvol.2でnashinokiがゲストに十分に聞くことができなかった話題について掘り下げるとともに、参加者からvol.2では出なかった新たな視点が提出される時間となりました。


ただトットローグ自体とは別種の事情で、企画側が、vol.2の参加者のみを対象に前回の続きを話すという前提を崩してしまったことは反省点でした。有意義な対話の場を成立させるために参加者全員の対話する前提を揃えるというルールは、注意しなければ簡単に崩れてしまうことだということを実感しました。とはいえゲストの赤井さんから出た、アートが好きなのはそれについてああだこうだ言えるから、という意見は、対話のプラットフォームもそのような場にしたいという認識や、「共通の価値」と言ったとき考えたかったのは、価値の内容ではなく、それが成立しうるための土台やそのプロセスについてだという認識を、企画者に与えてくれました。

Vol. 2を終えた後、企画側では、対話の場にゲストを呼ぶということについて考えるようになりました。nashinokiは関心のあるゲストから話を聞き、それについて他の人とも話したいという気持ちがあり、また対話の前提を揃えるという意味でもゲストの話題提供を求めていたのですが、前半でどうしても時間を多く要してしまうことや、後半の参加者がどうしてもゲストの話を聞く形になってしまい、そもそもの目的である参加者同士の対話に発展しにくいこと、それゆえどうしても参加者よりゲストに焦点があたりやすくなってしまうのではないかということを考えるようになりました。それでもnashinokiには、ゲストに話を聞きたいという気持ちも強かったのですが、それは対話のプラットフォームという企画の趣旨と両立するのかという問いが、他の企画者からあがるようになり、その両立についても、その後の検討事項となりました。

《つづく》


1.この点については、2020年度に開催された鳥取大学地域学部の連続講座「ことばの再発明−鳥取で「つくる」人のためのセルフマネジメント講座」のオンライン対話の構造からも示唆を受けています。

ライター

nashinoki

1983年、鳥取市河原町出身。鳥取、京都、水俣といった複数の土地を行き来しながら、他者や風景とのかかわりの中で、時にその表面の奥にのぞく哲学的なモチーフに惹かれ、言葉にすることで考えている。