八頭町アートケアリング
八頭町アーティスト・イン・レジデンス事業
八頭町の八東地域を舞台に、「アートケアリング」をテーマにしたアーティスト・イン・レジデンス事業がスタートしました。初年度の参加アーティストは、家族3人のユニット「がかのか族」と現代美術家の八幡亜樹さんです。地域に住む人たちと交流しながらアートとケアを見つめ、作品を制作。2025年2月6日(木)ー2月24日(月)には、「八頭町芸術文化交流プラザ あーとふる八頭」で展示会が計画されています。
この事業の発端となったのは、アーティストであり発達のリハビリテーションや精神病理学などの領域で芸術との関係を研究する大崎晴地さんが、恩師の協力をえて八頭町安井宿で活動を始めたことから。同地内で福祉に携わる「夢工房こばちゃん」の小林幸男さん、小林かやみさんと意気投合し、アーティストや建築家、起業家で構成する法人「労働者協同組合 Barrier House Project YAZU(バリアハウスプロジェクトヤズ)」を2024年3月に立ち上げました。将来的には、里山に芸術や福祉が感じられる地域の拠り所をつくることを目指しています。
その一環となる「八頭町アーティスト・イン・レジデンス事業」では、幸⽥千依さん、加茂昂さん、息⼦さん(5歳)からなる3人のユニット「がかのか族」に続いて、現代美術家の八幡亜樹さんが八頭町を訪れ、それぞれ2週間小林さんの提供する民家に滞在。「がかのか族」はカフェとしても利用できるスペースを地域に開き住民と関係を深め、八幡さんは一人暮らしの高齢者の元を訪問することで、人の持つ根源的な力を創作に反映しました。
「がかのか族」が、地域へと場を開き時間を共有することを楽しみながら絵と向き合う姿勢や、鳥取に到着したその日から目を輝かせて住民と語り合う八幡さんの姿も印象的でした。「アーティストが、企画者の予想を超えて地域と接点をもっている」と大崎さん。八頭町内の案内を申し出る方や、制作拠点となっている民家に何度も足を運ぶ方の姿も見られ、アーティストの存在が里山にあたたかな風を吹き込んでいます。
医療の現場でも働き「生命力を芸術の力でどう拡張できるか、いかに命の隣で芸術を行えるか」を考え続けているという八幡さん。農園を一人で切り盛りする女性の元を訪れた際には、「小さな体で自分の手の回る範囲でりんごを育てている。ケアをしすぎない。その方の人生が果実に凝縮されていて、落ちていたりんごをかじってみると今まで食べたことないくらいおいしかった」と語ります。普段は、写真や映像作品に携わっていますが、今回は八頭町で知り合った住民とともに造形作品に挑みました。
大崎晴地さんと八幡亜樹さん
生活空間とアートに関心を持つ大崎さんは、「幼少期から中学まで祖母と過ごす時間が多く、その延長上に今自分がやっている仕事があるのではないかと気づき、アートケアラーという造語が浮かんできた」と話します。そこから生まれた「八頭町アートケアリング」が、過疎化が進む中山間地域で高齢者の抱える孤立や孤独死などの深刻な問題に、どのような影響を与えるのか。展示会も含め、今後の展開に期待が高まります。
アーティストに加えて、プロジェクトを記録する写真家なども県内各地から訪れ、事業に関わりを持っています。一人ひとりが、その人らしく地域の方と出会うことで、「アート=ケア」が双方向に成立する萌芽を目の当たりにしました。アートが八頭の生活を豊かにし、さらなる人と人、人と自然とのつながりを生むだろう希望を感じさせる取り組みです。
参加アーティスト|
がかのか族 / Gakanokazoku
夫婦共に画家である幸⽥千依と加茂昂と息⼦さん(5歳)によるアーティストユニット。家族で⼦育をしながらアーティストとしての活動を続ける形を模索し2024年に発⾜。⽣活と制作をつなげてまるごと公開する「公開⽣活」を様々な場所で家族という単位から始めることで、作家1⼈では⽣まれない関係性や新たな創作のきっかけを探っている。
八幡 亜樹 / Yahata Aki
東京藝術⼤学⼤学院美術研究科先端芸術表現専攻修⼠課程修了。フィールド調査や取材に基づく、領域横断的な美術作品の制作を⾏なう現代美術家。主なメディアは映像+インスタレーション。「(地理的/社会的/⼼⾝的な)辺境」の概念を追求し、「⼿⾷」や「ロードムービー」に焦点を当てる。芸術により、⼈間の⽣命⼒を伸張する⽅法を思索・探究している。
八頭町アートケアリング 八頭町アーティスト・イン・レジデンス事業(八頭町AIR事業)
滞在期間|
前期:がかのか族 2024年年11月29日(金)ー12月13日(金)
後期:八幡 亜樹 2024年12月11日(水)ー12月25日(水)
展示期間|
2025年2月6日(木)ー2月24日(月)
展示会場|
八頭町芸術文化交流プラザ あーとふる八頭(鳥取県八頭郡八頭町安井宿1346)
事業に関する問い合わせ先|
労働者協同組合法⼈ Barrier House Project YAZU(バリアハウスプロジェクトヤズ)
住所:〒680-0521 ⼋頭郡⼋頭町安井宿1174
EMAIL:osaki@barrier-house.com
写真撮影|大崎晴地(3枚目)、田中良子(1.2.5枚目)