詩訳 白井明大
フリーペーパー『日本の憲法 最初の話』
5月3日発行
5月3日は憲法記念日です。日本国憲法は、多くの犠牲者を出した第二次世界大戦の経験を踏まえ、平和な国を目指して1946年に制定され、翌年5月3日より施行されています。鳥取在住の詩人・白井明大さんがその前文を詩に訳しフリーペーパーとしてこの度発行されました。
そもそも「憲法」とは、その国の決まりの中で最も大切なもの。すべての法律や決まりはこの憲法に従って作られることになっています。日本国憲法の前文には、各条項の内容に先立ち、この憲法全体がどのような想いで作られたのか、その重要な価値観が記されています。
詩人の白井明大さんはかつて法律を学んでいた際、憲法を全て暗記したことがあったといいます。この前文を読むたびに、「なんて素晴らしい理想が込められているんだろう」と感じたそうです。「記された一文字一文字に、一言一句にどんな意味やどんな想いが込められているか、どれほど私たちの暮らしにとってかけがえない大事なものか。そういうことを、やわらかな言葉で、自分の実感に近い表現で詩にすることにも意義があるのでは」と考え、2020年5月3日に詩訳を発表されました。
2022年のいま、ウクライナで起こっていることに代表されるように、戦争が手段として用いられることで人々がさらされる恐怖や憎悪の応酬は計り知れません。白井さんは「この憲法は誰がつくったんだとかそういう話が出るたびに思うのは、”これは地球上の人間の、平和を愛し、幸せを願う心がつくったんだ” です。」と、このたびのフリーぺーパー発行に寄せて綴っています。
詩訳は著作権フリー。SNSやブログでの無断転載・引用など大歓迎とのこと。tottoでも全文を掲載させていただきます。元となった日本国憲法前文も併記します。
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「日本の憲法 最初の話」
詩訳・白井明大
私は決めた。
ちゃんとした選挙で選んだ代表の人たちで
国会を作り
その代表の人たちを通して
私が行動することを。
私たちと私たちの次の未来の人々のために
さまざまな国の人々と
手を取り合うことで生まれる実りと
私たちの国の
ありとあらゆるところで
自由がもたらす恵みを
しっかり握って手放さないようにして
まちがっても政府の行ないで
二度と戦争を
引き起こさないようにすることを決めた。
この国はほかの誰のものでもなくて、
私が そしてあなたが
つまり一人一人が
この国の主人だ
と、いまここに宣言するよ。
いまここに、この憲法を定めるよ。
そもそも
この国で大事なことを決めるのは、
私たちが信頼して
あなたに任せたよ、と約束したのがはじまりだし
私たち一人一人が権威の持ち主だよ。
私たちが選んであげた人はただの代行でしょう?
全部この国のいいことは
私たち一人一人が受け取るのが当たり前。
いまここで言っていることは
地球上のすべての人間に共通の常識だし
この憲法だって
そういう常識をわきまえたもの。
だから誤解しないで。
私たちは
インチキとかズルとかウソとか
そういう反則をしようとするものは
憲法だろうと法令だろうと詔勅だろうと
一切ぜったい許さないから。私は
ずっと平和がいい。
この星で生きていくための
人間と人間の
つながりの土台を支える
とてもとても大事な理想を
深く心に持っておくよ。
平和を愛してる
いろんな国の人々の心の中にある
ウソやごまかしのない姿勢と
お互いを思いやる理性や知性を信じることで
私たちは安心して暮らそうと
そうやって生きていこうと決めた。
平和を守って
人が人を暴力的に支配したり、
奴隷にしたり、
存在を押しつぶしたり、
偏見に満ちたひどい扱いをしたり、
そういうことを地上から永遠になくそうと
がんばっている国々の集まりの中で
私たちは
胸を張れる仲間でありたい
そう思う。
そして
この世界の国の誰もが
一人の例外もなく
おそろしい目にあわず
貧しさから抜け出して
平和な日々を生きる権利を
持っているんだ
ということを
念のためにここで言っておく。私たちは信じる。
どの国も
自分のことばかり考えないで
他の国のことを無視したらだめ。
守るべきルールはちゃんとあって
お互いにルールを守りながらやっていくこと。
それが
自分の国の立場を保って
どの国とも対等な関係を築いていくために
地球の国々が
ともに歩むべき道だと信じる。私は誓う。
この国の主人として
顔を上げて 胸を張って
このとてもとても大事な理想と目的を
全力で叶えることを誓う。
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日本国憲法 前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
フリーペーパー『日本の憲法 最初の話』
詩訳|白井明大
デザイン|辻祥江
発行|Le phare poétique
2022年5月3日発行 無料
※この詩は「日本国憲法 前文」を訳したものです。著作権フリーです。
取扱い書店・お店・会|
■福島 omoto生活直売店
■千葉 本屋lighthouse
■東京 七月堂、B&B、忘日舎、jokogumo
■奈良 とほん
■京都 それとな、ホホホ座
■鳥取 定有堂書店、ちいさいおうち、ボルゾイレコード
■山口 わっか屋
■沖縄 くじらブックス
※2022.5.2現在。敬称略
白井明大 / Akehiro Shisrai
詩人。1970年生まれ。2021年より鳥取在住。2004年、第一詩集『心を縫う』を刊行。2012年、『日本の七十二候を楽しむ ─旧暦のある暮らし─』が静かな旧暦ブームを呼んでベストセラーに。2016年、『生きようと生きるほうへ』で第25回丸山豊記念現代詩賞を受賞。近刊に『着雪する小葉となって』がある。https://www.mumeisyousetu.com/
詩の灯台通信 ル ファール ポエティーク https://phare.mumeisyousetu.com/