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2019.3.13

それぞれの「表現」と出会う
汽水空港で「うちへ そとへ」展

3月3日(日)より17日(日)まで、松崎の書店・汽水空港で、「うちへ そとへ」展が開かれています。先日和歌山市の本屋プラグで行われた展示の巡回で、関西を中心に活動する4人の女性作家が、それぞれの作品を発表。展覧会がオープンした3月3日の夕方には、作家全員が揃って、自身の創作活動について説明するトーク「それぞれの『ひょうげん』と出会う~すきにいきる すきにつくる~」が行われました。ここではその様子を中心に、展示について紹介します。


この展覧会の特徴は、出展者の4人全員が、従来してこなかった新しい表現媒体での作品に挑戦していることだ。櫨畑(はじはた)敦子さんは、結婚という形を問い直しながら大阪で仲間と子育てを行い、家族のあり方を考える展覧会などの活動をしている。日常生活を送る中で、自分の深い部分にある「沼みたいなもの」が濁ってきたとき、それは「怒り」に変わるが、それを別の次元に昇華させ「沼を浄化する」方法として、好きな緑色だけを使った絵を描く方法を見つけた。美術の授業などで絵を描くのは苦手だったが、緑色だけを使って描くのは楽しく、今回はその作品を発表している。絵を描いている時は何も考えることがなく手だけを動かしていて、「車を運転しているような状態」だという。表現をすることは妊娠・出産と同じところがあって、自分から「何かが出て行った感覚」と話した。

ライターで編者者の太田明日香さんは、関西を中心にウェブや雑誌の記事を書いたり本の編集をする仕事をしている。一昨年まで家族の都合でカナダのバンクーバーに2年間住んでいたことから、時代を超えて広く届く言葉に目を向けるようになった。以前は詩に恥ずかしさも感じていたが、昨年『愛と家事』という自身の半生を書いた著書も出版し、それで自分の内面を書くのが気にならなくなった。詩なら短いし、声に出して読むこともできるので、本をあまり読まない人にも届けることができる。そう考え、今回は詩とそれを朗読したカセットテープによる展示を行っている。いくつかの経緯から、急に詩を書いて発表できるようになった。以前は作品に評価を求める部分もあったが、最近書くことに対する考えが変わった。どんな人であれ、本当に心から出る言葉が尊いし、作品を作るのは賞を取ることなどが目的ではなく、今はとにかくやめない、続けていくことが目的と太田さんは話した。

写真撮影:モリテツヤ

奈良絵里子さんは、短編小説を来場者が自由に持ち帰れる形で発表している。短歌が好きで以前から作ってきたが、自分の「表現のタネ」のサイズは、強度のある短い言葉で、体験を正確に描写する短歌より、日常の言葉で様々な要素が折り込める小説に合っているのではないかと考えていた。ある演劇で俳優を演じたことをきっかけに、かつて両親の離婚で別れた父とのことを戯曲に書こうとしたが、うまく書けなかった。しかしその後、実際に父と会ったことで自分の中で気持ちが変わり、小説を書き上げることができたという。完成したのは私小説風の作品で、それにも短歌の影響があるのではないかと思い、短歌のことがより好きになった。自分は短歌を作るのはそれほど上手くないと思っていたし、自分以外にすばらしい歌人がいるのだから、自分はファンでよいと思っていたが、最近はそういうことでもないと考え始めたという。

サトウアヤコさんは、人が自分の言葉で「語り」を始める瞬間に関心を持っていて、トーク前日に鳥取市のことめやで行った「mogu book 語りについて考える」など、このテーマにかかわるプロジェクトをいくつか行ってきた。しかし自身は話したり言葉を書いたりすることが苦手だった。少し前から短歌を作るようになり、友人と好きな短歌をもち寄って話すうちに、自分の中で何かがつながって短歌を書けるようになった。「これでやっと自分の言葉が手に入った気がした」という。短歌は知人に読まれないよう書いているが、今回の展示では短歌をめぐる周辺のことを「手紙」という形で記した文章を発表した。短歌を迂回することで、他の形の言葉も、少しずつ書けるようになってきた。今後はもう少し込み入ったことを書けるようになりたい、「ちょっとずつやっていたら、そういうこともできるのではないか」。そうサトウさんは話した。

筆者がこの展示を見て感じたのは、この4人は一度何らか表現することにおける壁のようなものにぶつかりつつ、それでも諦めずに、自身の必要とする「表現」にたどり着いた(あるいはたどり着きつつある)ということだった。何らか作品を作って発表しようとすると、「それで食べていけるのか」と問われることがある。もっともな問いのようにも聞こえるけれど、結局それは、表現活動が既存の経済システムの中で生き延びられるよう、位置づける努力をしているに過ぎないのかもしれない(それはそれですごいことなのだが)。4人は、表現をめぐる既存のあり方に自分を当てはめるのではなく、むしろ「表現」の方を、自らの切実な営みへと手繰り寄せていったようにみえる。その時初めて、「表現」は、彼女たち自身のものになったのかもしれない。

4人の作品を見ていると、見る者はどうしても「表現とは何か」ということを考えさせられる。この日のトークの最後、自身も大工や左官の仕事をこなし、店舗も自分で改装した店主のモリテツヤさんは、自分のやっていることは言葉による表現とはちがうと思っていたけれど、同じなんだなと思った、と興奮した面持ちで語っていた。モリさんの作った汽水空港という場所に、4人の作家が集まり表現することで、新しい何かが打ち立てられようとしているように感じられた。「うちへ そとへ」展は、汽水空港で3月17日まで。


展覧会「うちへ そとへ 鳥取会場」
ホームページ:https://uchiesotoe.themedia.jp
会期:2019年3月3日(日)-3月17日(日)(3月7日、14日は定休) ※会期延長
時間:午前10時~午後19時
会場:汽水空港(鳥取県東伯郡湯梨浜町松崎434-18)
問合先:汽水空港
e-mail: kisuikuko@gmail.com
https://www.kisuikuko.com

関連プログラム ※終了しました
作家4人によるトーク「それぞれの「ひょうげん」と出会う ~すきにいきる すきにつくる~」
日時:3月3日(日)17時-19時
ゲスト:櫨畑敦子、太田明日香、奈良絵里子、サトウアヤコ

ライター
nashinoki

nashinoki

1983年、鳥取県八頭郡河原町(現鳥取市)出身。京都在住。国際政治を勉強しようと上京し法学部に入学するも、進路変更しフランス思想のゼミへ。大学院では哲学・倫理学を学び、修了と同時に東日本大震災と原発事故が起こる。最近やっと自分が何を書きたいのかわかりはじめ、文を書きます。トットの他、鳥取のベーグル喫茶「森と生活者」の冊子『森と生活者』でも連載中。

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