やぶ くみこ(音楽家)#1
東南アジアの音楽家って踊りも太鼓も歌もなんでもできるんです

鳥取でさまざまなアートプロジェクトに関わったり、東南アジアの音楽シーンと料理のイベント「旅する音楽食堂」やライブなどを自ら企画して活動する音楽家・やぶくみこさん。「うかぶLLC」の蛇谷りえさんが、「東南アジア」や「音楽」についてインタビューしました。


- 今回、国際交流基金アジアフェローとしてタイに2ヶ月間滞在したそうですね。やぶさんといえばインドネシア音楽のガムラン奏者のイメージが強い人も多いと思うんですが、いろんな国がある中で「タイ」を選んだのはどうしてですか?

やぶ:まず、「音楽は本当にユニバーサルなのか?」ということに興味があって、さまざまな文化背景を持つもの同士が音楽のコラボレーションと即興演奏を通して、音楽の調和と自由さのバリエーションにある、人としての幸福の最大公約数を見つけたいと思ったんです。それで、2019年1月から3月の2ヶ月間、国際交流基金アジア・フェローシップとして、「多様性を認めるアジアの即興音楽」というテーマでリサーチしてきました。

タイは文化背景が特殊で東南アジアで唯一植民地支配を受けてない国なんです。当時の王様がヨーロッパの要人と仲良くなることで国家戦略的に国を守ったというお話があり、タイの人は誇らしげに話しますね。あと、仏教国で日本となんとなく感覚が近いです。そして、タイの音楽の音階が特殊で、7音階で、1オクターブを7等分しているから、西洋音楽からすると微妙に全部ちょっとずつ音階がずれているんです。それでもドレミの感覚でそのまま西洋音楽を演奏するから、西洋的なものにちょっと似ているけど、どういう風に西洋的なものとコラボレーションするときに折り合いをつけているのか、に興味がありました。そもそもタイの古典音楽のシステムも知らないのでそこを知ってからかなーと思って選びました。

- ガムランに出会ったのと同じ時期に、タイの音楽にも実は出会ってたんですよね。

やぶ:私とガムランとの出会いは、実は2007年にイギリスのヨーク大学大学院へ留学にいった時です。留学開始3日後くらいに作曲家の野村誠さんをご紹介いただき、野村さんがたまたまイギリスにきて、タイ人のアナンさんとアノタイさん主催でエディンバラ大学でワークショップをされたんですね。野村さんにもタイのお二人にもそのときに初めて出会いました。ちなみにアナンさんは今回の(2018年度の)リサーチにご協力いただいた方で、当時からタイのバンコクで大学の民族音楽学の教授をされていました。アノタイさんはイギリスのエディンバラの大学で博士課程をされてたんです。

エディンバラやグラスゴーでのワークショップとパフォーマンスの後、オーストリアのクレムスで開催されているContraste FestivalにI-Picnicという 野村誠さんのプロジェクトでのパフォーマンスがあるということで急遽同行させていただきました。そこでみなさんのパフォーマンスをみて、演奏力もパフォーマンスも集中力も何もかもすごくて衝撃を受けました。インドネシアからのスボウォさんも加わって、その人はジョグジャカルタの芸大の踊りの先生なんだけど、作曲もする人で東南アジアの人ってこんなになんでもできるんや。って衝撃を受けました。当時25歳小娘が丸腰で「パーカッションができます。」って言ってもはるかにレベルがちがうというか。「これは東南アジアになんかあるな」と思って。そこから、イギリス留学中にガムランを通じたコミュニティーミュージックの勉強をしてインドネシアに留学にいくんですけど。インドネシアだけじゃなく、タイにもずっと関心があってようやく叶ったんです。

- だから、次はタイへ行こうと思ったんですか?

やぶ:インドネシアには一年いってガムランも勉強したし、イギリスでもずっとガムランを勉強していました。インドネシアでスボウォさんを通して出会ったアーティストとたくさん即興演奏やパフォーマンスをしたことで、古典のガムランをみっちり習得する前に留学の目的が達成されたような感覚があったのと、古典音楽の鍛錬の果てしない道のりに途方にくれたという本音もあって(マスターしようものなら一生を捧げることになる)1年だけ勉強してインドネシアからは帰国。タイにいくタイミングはなかなか見つけられず、タイもそうやけど、外国に滞在するって、いけるときといけないときが扉みたいにある。いけるときってトントンと物事が進むけど、いけないときってぜんぜんチャンスが巡ってこない。外国に行っても、いい人に会えなかったりとか、なんかそういうのもあって。今回の国際交流基金の機会で、はじめは漠然としていた行き先だったけど、「多様性」というテーマにしようと考えた時に絶対タイに行けば大きな成果があるだろうと、感じたんです。

- そのイギリス留学中に出会っていたアナンさんが、今回のリサーチのコーディネートをしてくださったんですね。

やぶ:アナンさんは、大学の教授で、全国に民族音楽学の教え子がいらっしゃるんです。この度いろんな人にコンタクトをとってくださって、イーサン(東北)、チェンマイ(北西)、フアヒン(中部海沿)、ソンクラー(南部)などリサーチの目的にあわせてコーディネートしてくださりました。他にもミャンマーはどう?とご提案くださったのですが、今回はタイに絞りました。次の機会があるならミャンマーです。

現地でのコミュニケーションは主に英語でコミュニケーションを取っていました。リサーチに行った先で英語が不得意だという先生は、学生さんの通訳の方をつけてくださりました。けれど音楽の専門用語が多いので訳せる範囲に限界があって、通訳役の学生も知らない単語があって、その時はジェスチャーとか、絵で書いたりしてました。
路上に出ると丸腰なので、もう体当たりです。コミュニケーションもいくところまでいくと、そのままの方が案外伝わる。マーケットにいって日本語でおばちゃんにジェスチャー付きで「これをこのくらいと、これ3つ(日本語で)」伝えたら満面の笑みで包んでくれて、逆に「これもどう?(タイ語)」っておばちゃんから言われたり、おまけがあったり(笑)。

#2へ続く

写真:蛇谷りえ
構成:水田美世
※この記事は2019年11月17日(日)にY Pub&Hostelで行ったイベント「旅する音楽食堂 タイ編」の内容を編集したものです。タイでの滞在の様子については、以下の国際交流基金アジアセンター助成・フェローシッププログラムのページに詳細な活動報告書が掲載されています。併せてご覧ください。https://grant-fellowship-db.jfac.jp/ja/fellow/fs1813/


やぶ くみこ / Kumiko Yabu
音楽家/作曲家。1982年岸和田生まれ。英国ヨーク大学大学院コミュニティミュージックを修了。舞台音響家を経て音楽家へ。東南アジアや中東の民族楽器を中心に国内外の舞台音楽の作曲、演奏や他ジャンルとのコラボレーション多数。2015年にガムラン・グンデルによるソロアルバム「星空の音楽会」。2016年に箏とガムランと展覧会「浮音模様」を美術家かなもりゆうこと発表。淡路島にて野村誠と「瓦の音楽」を2014年より監修。京都にて即興中心のガムラングループ “スカルグンディス”を主宰。京都市在住。https://www.kumikoyabu.com/

ライター

蛇谷りえ

1984年大阪生まれ。2012年に「うかぶLLC」を設立し、共同代表の一人。うかぶLLCでは、鳥取県は湯梨浜町にある「たみ」と、鳥取市にある「Y Pub&Hostel」を経営している。また、鳥取大学地域学部教員の合同ゼミ「鳥取大学にんげん研究会」やアートプロジェクト「HOSPITALE」のマネジメントなど、ある世界の中で、サテライト的な関わりであれこれつなげるのが得意。”外”担当。 photo:Patrick Tsai