タクシー王子(?)の
とっとり裏道案内 #7  鳥の演劇祭

鳥取の中堅タクシー会社の若き御曹司・松浦秀一郎(通称、タクシー王子)が、ガイドマップに載っていないお薦めのお店、通り、おみやげ物、絶景スポット、旬な動きなどをご紹介。タクシーだからこそ知っているディープでオツな情報を、バックミラーごしにこっそりお教えします。


毎度ご乗車ありがとうございます。サービスタクシーの松浦です。あんなに暑かった夏がウソのように、秋の乾いた風に変わり始めましたね。休日は主に冷房の効いた室内でインドアライフを満喫していた私、そろそろ外に出たくてウズウズしているところです。皆さまはいかがでしょうか。

さて、鳥取市鹿野町で毎年開催されている『鳥の演劇祭』が今年も始まりました。13回目となる今回は「半開きの殻(シェル)・人間的距離を考えよう」をキーワードに、作品の上演とワークショップを中心に開催されます。

今回のコラムでは、9月12日と13日に野外劇場で上演された戯曲『NIPPON・CHA!CHA!CHA!』を紹介します。

曇天のもとの野外公演。いつも鳥の劇場の駐車場として使われている場所(かつては校庭でした)にステージと客席を配し、ソーシャルディスタンスを確保したうえで舞台が始まります。上演前の挨拶で主催者の中島諒人さんが「演劇の原初のかたち」と紹介した“屋外での上演”というシチュエーション。期待が膨らみます。

作品は、運動靴メーカーと才能あふれる青年が共にオリンピックを目指すオペレッタ。
経営を立て直したいだけだった町工場の人々と無垢なスポーツ青年。希望・期待・義理・人情・努力といった様々な要素が資本主義社会の掌で弄ばれ、すべてはポピュリズムのもとに破滅してゆきます。また、ストーリーが娯楽に変換され再生産されるという示唆的な状況も描かれており、近代消費社会にたいする皮肉も見て取れます。

タイトルにもなっている「ニッポン・チャチャチャ」は、国際的なスポーツ大会では定番的な応援のリズム。上演後トークで中島さん曰く「80年代のバレーボールから使われた記憶がある」とのことですが、正確な起源はわからないのだとか。しかしこの作品を通して考えてみると、「ニッポン・チャチャチャ」という一見して単純で軽快な拍子には、一方でまったく異なる不穏な印象をおぼえました。人を高揚させるばかりか思考不能な状態にまで追い込み、すべてを美談の名のもとに飲み込んでしまう恐ろしい死の行進。別の言い方をすれば、それは無知な人々を無責任な楽観主義へと先導する現代の万歳三唱と言えるのかもしれません。

「みんな空っぽ」と客席を指さして歌っていた場面が胸にぎくりと刺さりました。ストーリーはもとより演出も素晴らしく、渋さ知らズの生演奏にアトリエ・ワンの技巧を凝らしたセットなど、すべてが印象に残る素晴らしい作品でした。

建築家ユニット「アトリエ・ワン」設計による直径10mのドームは、8月16日にワークショップ参加者の手で組み上げられた
会期中プログラム実施日にはJR鳥取駅・浜村駅と鳥の劇場間を循環バスが運行(無料、要予約)。水色の看板が目印

『鳥の演劇祭13』は9月27日まで開催。演劇だけでなくワークショップやランチコンサートもあり、今年も充実の内容です。皆さまもぜひ。

本日はご乗車ありがとうございました。

トップ写真提供:中島諒人(鳥の劇場)


今回のお薦め裏道スポット

鳥の演劇祭 13
https://www.birdtheatre.org/engekisai/index.html
主催|鳥の劇場運営委員会
期間|2020年9月12日(土)-27日(日)
会場|鳥の劇場、野外劇場、お茶会ドーム、しかの心、鳥取市西商工会 鹿野会館、議場劇場

ライター
松浦秀一郎

松浦秀一郎

鳥取市出身。約2年前に東京からUターンし、実家のタクシー会社に就職。地域に貢献する公共交通であるという強みをいかして、鳥取をよりおもしろくするキッカケとなるべく、日々活動している。“何もない = 何かがある”地元の暮らしを楽しむため、プライベートでもまちの動きにアンテナを張り、地元の隠れた魅力を見つけることが喜び。