トリムジカ・プレイリスト #4
竹村尚子(切り絵アーティスト/ライブ企画/もりのひと)

例えば、夏の浦富海岸を車で走らせながらカーステから流れる◯◯◯◯とか、冬の大山スキー場で凍えた手をカイロで温めながらイヤホンで聴く◯◯◯◯とか……。ここにしかない時間と風景の中でこそ聴きたくなる音楽があります。毎回、鳥取屈指の音楽好きたちが登場し、鳥取のさまざまなシチュエーションにぴったりな音楽をセレクト、珠玉のプレイリストをお届けします。名付けてトリムジカ・プレイリスト。
今回は、鳥取市内の古民家を改装した自宅の土間を開放してライブなどを開催している竹村尚子さんが、冬の鳥取の暮らしに寄り添ってくれる10曲を選んでくれました。


今月のプレイリスト:鳥取の“長い冬”に彩りをそえてくれる音楽

鳥取の冬は深く長い。6年前の冬に鳥取市佐治町に来た時寒さは日に日に増し、都会から来た私に見せつけるかのように毎日雪が降り続きました。車の免許がない私はどこへ行くのも、何をするのも誰かに頼らなければいけなくて、なるべく家の中で過ごしました。鳥取初めての冬は辛いこともたくさんありましたが、暖かい部屋にはいつも好きな音楽が流れていたのです。
今回のトリムジカ・プレイリストでは、秋の終わりの風が冷たく感じる頃から、雪に覆われた地面からひょっこりとふきのとうの芽が顔を出すような雪どけの季節に合うような、鳥取の“長い冬”をイメージして選んでみました。どれも繰り返し聴きたくなる大好きな曲ばかりです。主観的ですが曲に対する思いやエピソードを読みながら楽しんでいただければ幸いです。

1. コーヒー / キッチン
5枚目のフルアルバム『たまねぎ』に収録。東京にいる時によく聴いたけど、鳥取に来て家族ができてから聞くとすごくリアルに感じました。「おかえり」や「ただいま」は相手がいるからこそ成り立つ言葉なんだなぁ、と。誰かと熱いコーヒーを飲みながら他愛のない話をしたくなります。

2. ロックンロール / 友部正人
THE ENDトリビュート『だってあの娘が好きだって言ったんだもの』から。地味だけど、生活に寄り添う独特の詩世界とキャッチーなメロディが素晴らしい。友部正人が歌うロックンロールはさすが!といった感じです。これからもずっと聴き続けるであろう名曲。

3. テクテク、イキテク、アルイテク / タテタカコ
2016年『業』の一曲目。彼女の真っ直ぐな眼差し、芯の強さや澄み渡る声は変わらず、素朴さや柔らかさなど人間味のある今作。このアルバム、今の自分の心境にすごく近いな、と思っています。今秋ライブフェス『GRASS GO』で見たタテさんのステージは圧巻でした。オカダノリコさんの描いたジャケットとともにお楽しみください。

4. 冬のにおい / フラワーカンパニーズ
1996年『俺たちはたち族』に収録。“えりを立てて、肩をすぼめ、歩く感じが好き、何か起こりそうな冬のにおいが好き”ウォークマンで大音量で聴きながらさっそうと町を歩くと冷たく痛いぐらいの風も情緒に変わるかも。そんなロックなナンバーです。

5. BRESTIR OG BRAK / ビョーク
ビョークの隠れ名盤、『Gling-Glo』の中から。地元アイスランドで録音されたJAZZな一枚。子どものような天真爛漫さとのびのびと歌う声に心躍ります。当時レコード店で“ビョーク的クリスマスソング!”というキャッチコピーを見て以来歌詞の訳はわからないのに毎年クリスマスが近づくとこれを聴いてます。

6. 真冬の兎 / ゆーきゃん
アルバム『sang』に収録。くるりの岸田繁が心を揺さぶられてリリースに至った一枚。ささやくような天使の歌声とリリカルな詩。ゆーきゃんの歌が冬が似合うのは彼が富山出身ということもあるのかもしれない。影さえも凍りつきそうな冬は鳥取の冬に近い気がします。人恋しくなる時期に聴いてみてはいかがでしょうか。

7. 雪 / 3月33日
去年新しく『ユートピア』というアルバムをリリースしたラストの曲。雪が美しく儚げで、春を待ちわびる気持ちが淡々と描かれてます。内省的な歌詞の世界は彼らそれぞれの生活から出てきたものばかり。カッコつけないし飾らないけど飽きがこないし、ずっと聴いていたいと思う。夏にボルゾイ・レコードで見たライブ、とても良かったな。

8.  この冬一番寒い朝 / 島崎智子
アルバム『姿』に収録。 重い映画を見た時のようななんとも言えないざらざらした気持ちが後を引きます。島崎智子さんのライブは自由なピアノ使いと剥き出しの感情表現は言葉では表せない感動を覚えます。一度竹村邸ライブに出演していただいたのもまだ寒さの残る3月の日でした。いつかまた鳥取でライブしてくれることを願って。

 9. もうすぐ夜があける  / 原田郁子
『ケモノと魔法』のラスト曲。このアルバムはジャケットが絵本ようになっており、物語の世界にいるようでもあります。夢と現実を彷徨っている世界はこんなにも曖昧で美しくあたたかいのかな。愛に溢れていて大好きな一曲です。

10. パッキングブランケッツ  / EELS
EELSの3枚目のアルバム、『daisies of the galaxy』に収録。静かで、それでいて力強い、脈々とした生命の息吹。まだ雪の残る鳥取の田園風景にもよく合うのではないでしょうか。パッと明るいというよりは暗いところから見えるあたたかな光のような、メランコリックで、ノスタルジックなメロディの美しさに胸高鳴ります!極上のポップミュージックをどうぞ。


竹村尚子(切り絵アーティスト/ライブ企画/もりのひと)
兵庫県西宮市出身。子どもが産まれたのをきっかけに鳥取へ。ライブハウスで働いていたこともあり、現在は鳥取市用瀬町のJR用瀬駅前にある古民家を改装した自宅の土間で「竹村邸ライブ」を不定期に開催。好きな音楽を好きでいるために夫婦で始めたこの企画は2017年8月に10回目を迎えた。自宅では切り絵をしたり刺繍をしたりするほか、昼間は天然酵母パン「もりのひと」で料理をしたりお菓子を焼いたりしている。

竹村尚子Facebook https://www.facebook.com/naocooo
竹村邸Twitter https://twitter.com/takemuratei
もりのひと http://mori-hito.com/

※「竹村邸ライブ」の情報はFacebookとTwitterで発信しています。次回(11回目)は2018年3月24日に開催予定。

※トップ画像は竹村尚子さんの切り絵作品『雪の中で』。

ライター

トット編集部

当ウェブマガジン編集部。鳥取の今をアートやカルチャーの視点から切り取ってお届けします。不定期に集まり、運営方針や記事内容の検討などをする編集会議を開いています。随時メンバー募集中!