門限ズ(クロスジャンルバンド)#1
まずは自分たちで越境する遊びをしよう

とりアート2019のメイン事業の一貫として、今年11月に開催する公演『ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」』を制作中のクロスジャンルバンド「門限ズ」。音楽、演劇、ダンス、そしてアートマネージメントと、4人のメンバーがそれぞれにプロとして活躍するフィールドを持ちつつ、門限ズの活動を10年以上続けてきました。
セッション、レクリエーション、修行、リハビリ…? さまざまなキーワードが飛び出すなか、門限ズ誕生のきっかけやこれまでの歩みを伺いました。


― 門限ズの結成の理由というか、誰が言い出しっぺというか、リーダーなんでしょうか?

野村誠(以下、ノム):はい!僕がバンマスです。

倉品淳子(以下、じょほんこ):バンドなんですよ、実は私たち(笑)

ノム:そう、バンド。指揮者とオーケストラ、演出家と劇団、のような関係よりも、セッションしながら遊べる軽やかさがある活動がいいと思って。バンドって、ベーシストも2人いないし、ドラマーも2人いないし、ボーカルも2人いないし、かぶるとこないでしょ。全員それぞれの役割があって、一緒にセッションする。そんなノリでできたらと。


野村誠:作曲家・ピアニスト。ブリティッシュ・カウンシル招聘により英ヨーク大学大学院音楽研究科にて1年間研修。インドネシアと日本で何度も上演される度に変化するガムラン作品「踊れ!ベートーヴェン」、日英共同の「ホエールトーン・オペラ」、マルチメディア作品「老人ホーム・REMIX」、インスタレーション「根楽」、「アコーディオン協奏曲」など、20カ国以上、40都道府県以上で、分野を横断し人と環境と出会いながら、作曲プロジェクトを展開している。

ノム:そもそものきっかけは、2007年に宮城県にある「えずこホール(仙南芸術文化センター)」で僕が住民参加型音楽劇を監修して演劇交響曲「十年音泉」という作品を作ったことに遡ります。出演者200人ぐらい、関係者も合わせたら500人ぐらいいたんじゃないかな。その時に演劇ではじょほんこさんにも入ってもらったんですけど。かなりクロスジャンルな、越境する試みもいっぱい盛り込んだわけです。
例えば、一般の人がギターを持って、二人三脚みたいにたくさん連なって、隣の人の楽器を弾きながら出てくるとか。舞台上と2階席に吹奏楽団がそれぞれいて、指揮者もそれぞれに客席や舞台にいて、吹奏楽団に向かって指揮棒を振っていたり。その真ん中では芝居をやってたりして。一般の人がかなりいろんなことをやったわけです。
ワークショップにはアーティストが結構たくさん来てくれたんですけど、基本的に舞台に立つのは一般の人たち。やったときはやり切ったと思ったんですけど、やった後に思ったのは、そもそもまずは、プロである自分たちでそういう越境する遊びを実践して、それからアマチュアの人を巻き込むのが筋だったと(笑)そう思ったんです。
それと、その時僕は総合監修だったので、交通整理をずっとしているわけです。基本は選手だから、監督業をやっていたらこのまま監督になってしまうと。そういう感覚も出てきて、それで、門限ズを結成するに至りました。

― えずこの時、じょほんこさんはワークショップの講師として関わっておられたのですか?

ノム:最終的にこの人は、出てました。でも基本は出てないんです。でもどうしても出ないと成立しないシーンに、気違い演出家というという役で出てもらって。

じょほんこ:音楽と演劇を一緒にやるってなったら、どうしても演劇の筋を追っちゃうと、音楽が助ける側になっちゃうんですよ。音楽と演劇とダンスが、何ていうか、ちゃんとコラボレーションしたいってなったら、演劇はとりあえずあんまり物語を追わない方がいいっていう判断なんですよね。そうしないと、音楽もダンスも全部演劇を補助する役割になっちゃうから。それは面白くないねって言って、物語は捨てて、気違い演出家がめちゃくちゃにするっていう風になったんですよ。そのときはね。

ノム:筋をきちんと追っていくっていくのもあってもいいと思ってるんですが、あの時は、演劇をしたい!という人が市民の中から出てきたことが重要だったんです。いろんなのりしろがある方がいいし、それを落とし込もうとしたときに、筋を追うことが重要ではなくなったというか。


[左] 倉品淳子:俳優・演出家。劇団山の手事情社所属。1990年より俳優として劇団山の手事情社にて舞台表現を追求する傍ら、インプロや大道芸、「あなざ事情団」「門限ズ」などのユニットに参加し、観客参加型演劇、他分野アーティストとの作品作りなど、演劇の可能性を広げる活動も同時に行ってきた。スイス、ドイツ、ポーランド、ルーマニア、韓国など海外での公演も多数。2012年より認定NPO法人ニコちゃんの会「すっごい演劇アートプロジェクト」チーフプロデューサー。
[右] 吉野さつき:ワークショップコーディネーター・愛知大学文学部教授。英国シティ大学大学院でアーツ・マネジメントを学ぶ。公共ホール勤務、英国での研修(文化庁派遣芸術家在外研修員)後、コーディネーターとして、教育、福祉などの現場でアーティストによるワークショップを数多く企画。アウトリーチ事業やコミュニティアーツプログラム、ワークショップ等の企画運営を担う人材育成にも各地で携わる。

― そのえずこホールの舞台は、他のお二人は観ていたんですか?

吉野さつき(以下、めい):私はお客さんとして観ていました。

遠田誠(以下、エンちゃん):僕は観てないです。

― どこからお二人は関わるようになったんですか?

ノム:次の年に、「まこと」って名前の人を集める企画が京都であって、すでに知り合いではあったんだけど、その時にパフォーマンスを観たり対談したりして、この遠田誠を見染めたというか。後に門限ズを始めるにあたって、めいさんと話している時に、ダンスは遠田誠がいいなとしゃべって。

じょほんこ:いやー、合うと思うんだよね、実はねーとか言ってね(笑)

ノム:全く何の確証も無く、相性とかも、全く分からないし。たぶん初めてですよね。

じょほんこ:そうそう、エンちゃんと私は初対面。

ノム:でも、ちょっと、一緒にやってみたいなって。

― その、抵抗なく始められたんでしょうか?

エンちゃん:抵抗?ですか?いやー、何でしょう。僕は、門限ズっていうのは、「考え方のリハビリ」っていうか(笑)普段の自分のダンスの活動でもですね、柔軟な発想を持ってやっているつもりなんですけど、割と狭いというか。型にはまらない破天荒な風でいて、実はすごい緻密にやりたがりなんですよ、僕は。「ここもうちゃんと合わせて」っていうそういう何か、癖(へき)があるんです。門限ズは、きちんと組むとか、きれいに仕上げるとか、そういうこだわりが通用しない場所(笑)です。そのベクトルではやってはいけないっていう、真逆の場所なんですよ。だからなんかさっき急に車の中で、こう、シフトチェンジが起こったわけなんですけど。ついさっきまで松山で…

ノム:門限ズとはまた違うベクトルでやっていた。

エンちゃん:そう、完全に別のモードでやってた(1)のに、鳥取に来て、急に「白ウサギフィナンシェが今回重要なカギなんですよ」とか、3人が喜々として言っていて(笑)何を言っているんだって、ええ年こいてって一瞬思ったんだけど、「ああ、そうだった、そうだった、いかんいかん、モードチェンジが全くできていなかった」ってね。門限ズは、自分の方法論が通用しない場所でやるっていう、修業の場です。だから、合う合わないっていう、そういうことを考えること自体がダメなわけです。

ノム:公演とかパフォーマンスとか以前に、まずは自分たちでいろいろと体を動かして遊んだり試したりしようってことで。何のゴール(目的)も決めずに、集まっていろんなことを…

めい:実験してるんですよね。


遠田誠:ダンサー・振付家。漆器作りの家系に生まれ、プロダクトデザインを学ぶ一方、商店街ファンとして街のディティールに注目。デザインする上での俯瞰した視点とマニアックな街の断片、ダンスの外様としての特異なアプローチから作品づくりを行う。日常のはざ間にダンスその他諸々を割り込ませた『まことクラヴ』を主宰し、劇場はもとより国立新美術館、金沢21世紀美術館、山口情報芸術センター(YCAM)といったアートスペースから商店街、市役所、電車内、空港に至るまで出没し、サイトスペシフィックな活動を展開する。

― 遠田さんはリハビリと表現されていましたが、そういう実験みたいなことをやる場所が門限ズなんですね。きちんと組むとか、合わせるとかではない方向性にある。

エンちゃん:いやだって、イギリスに行って何してるかって言ったら、無い凧を揚げに行ってるんですよ(笑)

ノム:イギリスで、たくさんの人が凧を揚げるフェスティバルがあって、それは僕の友人の音楽家がディレクターをしている「モアミュージック」が主催でやってるんです。そこでは音楽イベントもあったりする。で、そのフェスティバルに行って、僕らは、うおーっとか言いながら巨大な見えない凧を揚げに、イギリスに行ったんです(笑)

めい:それだけじゃなかったよね!

ノム:それだけじゃないけど、それにしても、どれも似たような(笑)

エンちゃん:凧揚げの破壊力が凄すぎて(笑)

― 他の人は本物の凧を揚げていて、門限ズは見えない凧を?

エンちゃん:そうそう。空には他の凧もいっぱい飛んでいて、周りの人が見間違う感じもあったよね。でもよく見たら、僕らは糸は握っていない(笑)

めい:周りに揚げてる人がたくさんいるから、だんだん見ている人が惑わされて、「え、あんの?」って驚いた顔で見にくるっていう場面もありましたね。

じょほんこ:でも一番面白いのは、めいさんですよね。

― マネジメント専門のめいさんがメンバーというのは、大きいですよね。論理的な土台というか、全体を支えるというか。

ノム:いや、支えるっていうか…

めい:箸休めみたいな。

ノム:…いや、この人が、例えばエンちゃんのダンスを真似するってときに、すごいことが起こるわけです。(笑)エンちゃんが、ばーばーっばって手や足を伸ばして凄いダンスをしているのを、めいさんがそれを真似ると、なぜか急に、(人差し指を四方に指す動きをしながら)究極のシンプリファイというか、省略化が起きるわけです。

めい:私の気持ちとしては、その動きをしたいんですけど、やっぱり動けない。で、動いた感じで…

じょほんこ:私の指先はあそこまで伸びたっていう指さし?

ノム:指さしなんて全くしてないダンスにも関わらず、全部がこう一本指で何か指してる。

エンちゃん:自分では箸休めっていう害のない言い方をしてたんですけど、あなたのやっていることは破壊なんですよ。

(一同笑)

めい:悪気はない。

エンちゃん:だからね、なんかその、本番じゃないところでしっかり自らが作り上げた土台を、本番で自ら破壊しているっていう。

(一同笑)

じょほんこ:うんうん、そうね、自己矛盾。

エンちゃん:パラドクスなんですよ、壊すために作ってて、一所懸命見えない努力をしている(笑)

めい:ひどい~

じょほんこ:まあ、それもあるんですけれど、門限ズのテーマは越境じゃないですか。だから、メンバー同士が越境することで、お客さんとも越境できるみたいな、私のイメージがあって。めいさんがいることで対象化できるところもあるし。

めい:ひとりだけお客さん寄りの人がいる。そういう位置づけですよね、いまのは。

ノム:それだけじゃないけどね、そういうこともある。

― めいさんが普段されているのは、パフォーマンスをやらない側の動き方ですよね。なのに門限ズでは、やる側になっているということですよね。

めい:最初は自分が舞台に出るつもりじゃなくて。もともと門限ズは、いろんな方法で遊ぶっていうのを大事にするレクリエーションの場だと言われていたんです。レクリエーションバンドだから、みんなヒエラルキーがなくって、いろんなジャンルの人がやる。例えばドラムの人の作曲があってもいいし、ボーカルの人が作曲の曲もあるっていう風にやれたらいいんじゃないかって話になって、そういう話は私もすごい面白いなって思って入ったんです。

ノム:しかも人前でパフォーマンスするとは言ってないからね。

めい:そう、言ってない。結成時点では、公に発表するとかそういうこととは関係なくやろうって。だから、私も、マネジメント専門とはいえ、例えば場所を抑えたり、事務をやるだけではつまらない。遊びなら、私も遊びたいって、そう言っただけなんです。

ノム:めいさんに言われて、確かにそうだと。で、いまに至る。でもね、このめいさんが「私も!」っていうのは結構重要なカギになっていて。一般の人とやるっていう時に、実は「出たい」とか「やりたい」と思う人がいるけど、でも「こんなすごい人たちとはちょっと躊躇する」っていう場合が結構ある。そのカギを握っているのは、このめいさんなんです。いろんなポテンシャルのなかで「やりたい」っていう人たちとどうアクセスするかっていうことが考えられる。

めい:このメンバーの中でやってたら、だいたいのことはうまくできないですから、私は。体は固いし、普段トレーニングしてないから、声も別に遠くまで通るわけではないし、楽器がすごいできるわけではない。だいたい何一つうまくできないんですよ。

ノム:でもパワーポイントのプレゼンはすごい得意なわけ。それで、ある企画でそれぞれが自分の得意分野でワークショップをして、その記録映像を元にリミックスしてピアノと掛け合わせた作品を作ったんですね。
演劇やダンスベースの作品がそれぞれできるってことなら、私のマネージメントも作品がないのはずるい。私のもいるってめいさんが言い出して。そうだ、やろうってなって。めいさんがやったのは企画のプレゼンだけだったから、最初はどうしようってなったけど、そのプレゼンしたものにピアノをつけて曲にしたら、すごい面白くって。これ、作品にすべきだったと。
演劇とか、ダンスとか、音楽とかって言っちゃうとためらう人も、得意なことは必ず持ってるじゃないですか。以前、エンちゃんと舞鶴でつくった作品は、いろんな市民の人と一緒に、特技オムニバスみたいなダンスを作ったんですけど(2)、ダンスしましょうっていうんじゃなくて、自分の得意なことや特技を持ち寄って公演にしたらすごい面白かったんです。急に敬礼する人が現れたり…

エンちゃん:皿回しとか。染織している人はかき混ぜる作業の動きとか。いつもやっていて身に付いている動きっていうのは、実は説得力がある。誰かに見せるためにやっていないというだけであって、動きとしては無駄のない、洗練されていて、観ていてすごい美しかったりして。でも本人は行為の先に意識が行っているから、行為そのものの魅力に気づいていない。

じょほんこ:米子市児童文化センターの森山慶一さんのジャンプもそうだったよね。米子公演(3)の打ち合わせでプラネタリウムの投影機を説明してくれたんだけど、ジャンプした指の先にある機械を見てもらいたくてやったことだったけど、なんかすごい素敵だったよね。

エンちゃん:そう、それにあの機械自体も、造形美を見せたいわけではなくて、機能として必要なものを必要なところに配置したらああゆう造形になったということなんだけど、美しいと思ったよね。

#2へ続く

1:愛媛県松山市の道後温泉で開かれるアートイベント「オンセナート」の一環として行われた「ドウゴ“街”ダンス(ドウゴガイダンス)」(2019年2月23日実施)。構成・演出を遠田誠が務め、複数のダンサーとともに出演した。
2:舞鶴市民会館で行われた「参づるダンス 参づるピアノ 参づる舞鶴」(2012年3月実施)。遠田誠が構成・演出、音楽を野村誠が担当。地元のワークショップ参加者がダンスを披露した。
3:第17回鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019メイン事業「鳥取銀河鉄道祭」米子公演 プラネタリウム劇場「音とカラダで銀河鉄道」(米子市児童文化センターにて、2019年5月26日と27日に実施)


門限ズ / Mongenzu
作曲家でピアニストの野村誠、ダンサーで振付家の遠田誠、俳優で演出家の倉品淳子、アーツマネージャーで大学教員の吉野さつきの4人が、お互いのジャンルを超えてアートの可能性を真剣に考えながら遊んでいるバンド。2008年結成。2009年1月門仲天井ホールで初ライブ。同年7月には英国でのワークショップとライブなどによるツアーを行う。2010年福岡市博物館、福岡市美術館でのワークショップ、福岡アジア美術館でのライブ。2016年愛知県豊橋市でワークショップや遠足などを実施。2018年九州大学ソーシャルアートラボに招聘されワークショップなどを実施。
鳥取銀河鉄道祭では、2019年11月開催のとりぎん文化会館公演『ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」』を鳥取県内の人たちとともに制作中。

鳥取銀河鉄道祭
〈鳥取銀河鉄道祭〉は鳥取県総合芸術文化祭・とりアート2019のメイン事業です。宮沢賢治の名作「銀河鉄道の夜」を題材にした音楽劇を県内全域で展開しています。また「すべての人が芸術家である」という賢治の思想に基づき、県内様々な地域での活動や人々の暮らしを星座に見立てた88のトピックスで紹介していきます。これらは終着点である2019年11月2日3日にとりぎん文化会館で開催される鳥取公演 “ゲキジョウ実験!!!「銀河鉄道の夜→」”へと繋がっていきます。
公式HP https://scrapbox.io/gingatetsudou-tottori/
Facebook https://www.facebook.com/Gingatetsudou.Tottori/

ライター

水田美世

千葉県我孫子市生まれ、鳥取県米子市育ち。東京の出版社勤務を経て2008年から8年間川口市立アートギャラリー・アトリア(埼玉県)の学芸員として勤務。主な担当企画展は〈建畠覚造展〉(2012年)、〈フィールド・リフレクション〉(2014年)など。在職中は、聞こえない人と聞こえる人、見えない人と見える人との作品鑑賞にも力を入れた。出産を機に家族を伴い帰郷。2016年夏から、子どもや子どもに目を向ける人たちのためのスペース「ちいさいおうち」を自宅となりに開く。