やぶ くみこ(音楽家)#2
基本認められてるから、気楽にいろいろできるって思える

タイに滞在して、いろんな地域の演奏を見たり、タイの人たちと交流をしてきたやぶくみこさん。タイでのさまざまな音楽の現場事例を聞ききながら、音楽をしているタイ人の生き方、人間としてのあり方に話が広がりました。

(この取材は2019年11月17日(日)にY Pub&Hostelで行ったイベント「旅する音楽食堂 タイ編」の内容を編集しています)

- 滞在中は、タイのいろんな地域の演奏をみてきたんですか?

やぶ:バンコクを中心に、イーサン(東北)、チェンマイ(北西)、フアヒン(中部海沿)、ソンクラー(南部)の5箇所に行ってきました。

これは、チェンマイの路上演奏です。この人はお寺の檀家さんかなにかでチャリティー目的で演奏しているようでした。道行くひとがお金を入れていきます。

やぶ:この映像は目の見えない人たちが一列になって歩いて、移動して、人通りの真ん中で演奏しているもの。大太鼓(最後尾)と前がわかれていて、かわいい。ポップな曲を演奏していました。とても人気でものすごい稼いでおられました(笑)

- 路上演奏って楽しそう。例えばやぶさんがここで演奏しても怒られないの?

やぶ:わからないけど、たぶん、大丈夫やと思う。チェンマイの路上で多国籍のミュージシャンが混ざって演奏している輪があって、とてもいい演奏だった。乱入しなかったのが悔やまれます。

- これは、演奏一曲が長いね。

やぶ:こちらは場所が変わって、バンコクのチュラロンコン大学の付属高校の伝統音楽の練習場での様子です。この日は全国の高校による伝統音楽のコンクール3日前の練習風景で、アナンさんも所属する伝統音楽グループkorphai(コーファイ)のメンバーがボランティアで熱心に指導しています。
タイの伝統曲も20分くらいだそうです。つなげるとどんどん長くなりますが、インドネシアのガムラン伝統曲は20分っていったら短い方で、日本の箏曲も20分は平均的な長さです。一回座ったら終われない。蚊がとまっても演奏は休まれへん。伝統曲を演奏する時は記憶力と技術、集中力、忍耐力が必要です。

- 同じタイでもチェンマイ、バンコク、ソンクラーはどれも楽器も音階も違う独特のものなんですね。じゃあ、やぶさんが関心のある「即興と作曲」は、タイの人たちはどういう概念があるんですか?

やぶ:一概に説明するのは難しいんだけれども、即興も作曲も簡単ではないというイメージがあるのはタイも日本も変わらないなぁと感じました。タイの音楽大学の授業に訪問したときに、タイの大学院生とともに即興演奏をしながら「即興と作曲は、どこから即興でどこから作曲になっていくか?」という質問をしたら、「もう楽器がきまったら作曲や。」「初めと終わりがきまったら即興や。」「ルールが細かくなることが作曲になる」って意見が出ました。譜面に”ルール”書いていくことで、演奏の自由度というか、音楽そのものが持つ力が失われていくのか、と同時に、じゃあどうしたら音楽が持つ力が発揮されるのか、っていうディスカッションをしたんです。それがおもしろかったし、この話をできたのがよかったです。普段は、西洋音楽を勉強している学生たちやから、譜面をきちんと読むし、演奏もする。ほとんどは西洋音楽中心なのです。タイの伝統音楽は初等教育で学ぶそうです。タイの音楽は基本になるメロディーと形式があって、コール&レスポンスの部分がある。そこで自分の技を披露し、音楽の解釈を広げていく。タイの伝統音楽には「基本のメロディ」という枠がある。即興演奏の場合には流れと反応がある。基本のメロディーをベースにして形式どおり展開していくのがタイの伝統音楽。はじまって、ゆっくりになって、コール&レスポンスして(いくつかの楽器同士の掛け合い)、早くなって、のバリエーションがある。そういう枠が決まっている。

私の中では即興と作曲は本当に隣り合わせで、枠を決めていくことが作曲のはじまり。即興演奏は枠の中で何をするかを音を出しながら、聴きながら、音を置いていくことだと思っている。枠のなかで何するか決める。そして気がつくと作曲になっていく。

- タイのいろいろをみてきて、なにを吸収してきたの?

やぶ:一番は国民性。タイは「愛されるために生まれてきた」っていう前提にある。そこが多様性を受け止めるプラットフォームになってるなーっておもった。タイは性別の判断に関して寛容な文化があって、「わたしは女性のからだをしてるけど、中身は男性です。そういうのもあるよね。生きてるしねー、愛してねー。」「生まれてきたんだから楽しめばいいじゃない。」っていう感覚なんですよ。まず。そこがいろんな国をみてきたけど、大きく違う。それを受けとめると、すごい気楽になれるんですよ。基本的に自分というものが認められてるから、気楽にいろいろできるって思える。そこにどういう風にいてもいいんだけど、これできたらもっとかっこいいよね。ていうので、人間性を高めていってる。

技を磨いていくには、怠けてはいけないし、譲ってもいけない、そうやってどんどん精神的にも磨かれて、どんどん自分というものを磨いていく。そういうことをすごくシンプルにやってるなあっていう感じは受けましたね。

《つづく》

写真:やぶくみこ、蛇谷りえ
構成:水田美世
※この記事は2019年11月17日(日)にY Pub&Hostelで行ったイベント「旅する音楽食堂 タイ編」の内容を編集したものです。タイでの滞在の様子については、以下の国際交流基金アジアセンター助成・フェローシッププログラムのページに詳細な活動報告書が掲載されています。併せてご覧ください。https://grant-fellowship-db.jfac.jp/ja/fellow/fs1813/


やぶ くみこ / Kumiko Yabu
音楽家/作曲家。1982年岸和田生まれ。英国ヨーク大学大学院コミュニティミュージックを修了。舞台音響家を経て音楽家へ。東南アジアや中東の民族楽器を中心に国内外の舞台音楽の作曲、演奏や他ジャンルとのコラボレーション多数。2015年にガムラン・グンデルによるソロアルバム「星空の音楽会」。2016年に箏とガムランと展覧会「浮音模様」を美術家かなもりゆうこと発表。淡路島にて野村誠と「瓦の音楽」を2014年より監修。京都にて即興中心のガムラングループ “スカルグンディス”を主宰。京都市在住。https://www.kumikoyabu.com/

ライター
蛇谷りえ

蛇谷りえ

1984年大阪生まれ。2012年に「うかぶLLC」を設立し、共同代表の一人。うかぶLLCでは、鳥取県は湯梨浜町にある「たみ」と、鳥取市にある「Y Pub&Hostel」を経営している。また、鳥取大学地域学部教員の合同ゼミ「鳥取大学にんげん研究会」やアートプロジェクト「HOSPITALE」のマネジメントなど、ある世界の中で、サテライト的な関わりであれこれつなげるのが得意。”外”担当。 photo:Patrick Tsai